2025.01.27

「最善利益義務」を踏まえた金融事業者の態勢整備のあり方について(第5回)

のぞみ総合法律事務所
弁護士 吉田桂公
MBA(経営修士)
CIA(公認内部監査人)
CFE(公認不正検査士)
認定経営革新等支援機関

 

5 「顧客の最善の利益」を実現するために、どのようにPDCAサイクルを回すのか

(1)はじめに

 本稿第3回で解説したとおり、金融事業者においては、「顧客の最善の利益」を実現するために、どのようにPDCAサイクルを回すのかが重要です。
 ここでは、PDCAサイクルとは、以下の取組みを指します[1]

・ 顧客本位の業務運営に関する取組方針(以下「取組方針」といいます。)の策定・公表(P
・ 取組方針の実践(D
・ KPI[2]による評価(C
・ 改善活動(A

 (2)取組方針の策定・公表(P

 金融庁は、「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」(令和4914日開催 全国地方銀行協会/同月15日開催 第二地方銀行協会)等[3]で、取組方針の策定・公表に関連して、以下のような指摘をしています(下線部筆者)。 

 このように、取組方針の策定・公表(「顧客本位の業務運営の「見える化」に取り組むこと」)は、自社の取組みの差別化等を対外的にアピールする手段として活用できます。まさに、マーケティング戦略や営業戦略の一環としての機能も有するのです[4]
 では、具体的に、取組方針の内容として、どのような点に留意すればよいのか―この点について、金融庁は、「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」(令和5913日開催 全国地方銀行協会/同月14日開催 第二地方銀行協会)等[5]で、以下のように指摘しています(下線部筆者)。

 ①上記のとおり、取組方針には、顧客等に対して自社の取組みをアピールする役割があるため、その内容は、顧客目線であることが必要です。また、②顧客本位の取組みを実践するのは、現場の従業員であることから、取組方針の内容は、従業員目線である必要があります。
 顧客への訴求力を高めるためには、取組方針の“独自性”と“具体性”が重要となります。特に、マーケティング戦略の観点からは、他社とは差別化された“自社ならではの具体的な取組み”をアピールすることが有益です。抽象的な内容では顧客の心には刺さらないでしょう。
 加えて、“具体性”があることは、従業員目線でも重要です。抽象的な記載では、従業員は、何にどう取り組めばよいのかがよくわかりません。取組方針を実践するためにも、“具体性”は必要です。

(「第6回」に続く)


[1] 戦術・施策のPDCAサイクルを回すことも重要ですが、本稿では、紙幅の都合上、割愛します。

[2] 金融庁「「顧客本位の業務運営に関する原則」の定着に向けた取組み」(平成29年3月)3頁において、「各金融事業者においては、顧客本位の業務運営の定着度合いを客観的に評価できるようにするための成果指標(KPI)を、取組方針やその実施状況の中に盛り込んで公表するよう働きかけ」をする旨記載されています。

[3] https://www.fsa.go.jp/common/ronten/index_6.html

[4] なお、それだけでなく、「経営陣が営業職員の顧客に向き合う姿勢を検証できる」、「営業職員が日頃の営業姿勢を見直す良い契機にもなる」とあるように、コンプライアンスチェックや業務品質・サービス品質の向上への活用も期待できます。

[5] https://www.fsa.go.jp/common/ronten/index_7.html

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