2019.10.03

相続法改正について(第3回)

のぞみ総合法律事務所
弁護士 鈴木 和生

1.はじめに

  今回は,相続法の改正点のうち,③相続人を含む利害関係人の実質的な公平を図る制度について解説します。なお,特に指定がない場合,条文番号は改正後の民法における条文を指しています。

2.相続人を含む利害関係人の実質的公平化

 従来の相続法においては,紛争性が高く,利害関係人が多数に上る場合が多いという相続事案の特徴に着目し,画一的な処理を可能とするための制度設計がなされていた一方で,これによって不公平な事態が発生することもしばしばありました。
 本改正では,このような不公平な事態を是正し,利害関係人の実質的公平を図るため,相続開始後遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合に関する規定及び被相続人に貢献した者による相続人に対する金銭請求に関する規定が設けられました。 

(1)相続開始後遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合に関する規定

 従来の相続法においては,相続開始後遺産分割前に遺産に属する財産の一部が処分された場合の規律を定める規定が存在せず,この場合,当該処分後の遺産分割時点で存在する相続財産を基準とした遺産分割がなされていました。
 そのため,当該処分を前提として遺産分割を行った場合は,当該処分が行われずに遺産分割がなされた場合に比して,処分者が取得する遺産の総量が多くなり,処分者以外の相続人が取得する遺産の総量が少なくなるという不公平な事態が発生していました。
 そこで,このような不公平な事態の発生を防ぐため,改正法においては,相続開始後,遺産に属する財産の一部が遺産分割前に,共同相続人又はその他の第三者に処分されて遺産分割時には存在しなくなっていた場合であっても,共同相続人の全員の同意により,当該財産が遺産分割時に遺産として存在することを前提とした遺産分割をすることが可能になりました(906条の21項)。また,当該処分が遺産分割前に共同相続人の一部によってなされた場合には,当該処分を行った相続人を除く他の共同相続人全員の同意があれば,当該財産が遺産として存在することを前提とした遺産分割をすることが可能になりました(同条2項)。 

(2)被相続人に貢献した者による相続人に対する金銭請求に関する規定 

 従来の相続法においては,療養看護等によって被相続人に貢献した者に対して寄与分(904条の21項)を認めるなどし,相続に当たって,被相続人への貢献を考慮していましたが,寄与分が認められるのは相続人に限られているため,相続人以外の者の貢献を考慮することができませんでした。また,相続人以外の者(貢献者)が被相続人との間で,療養看護等を行う代わりに報酬を受領する内容の契約を締結する等の手段も考えられますが,当該貢献者が被相続人に対して契約締結を依頼することが心理的に困難な場合も多く,現実的ではありませんでした。
 そこで,改正法においては,被相続人の療養看護等を行った者の貢献に報いるため,特別の寄与の制度,すなわち,相続人以外の親族が被相続人に対して貢献した場合,当該親族が,相続人に対して当該貢献の度合いに応じた金銭請求をすることができるとする規定が設けられました(1050条)。これにより,被相続人に対して無償で療養看護などの労務を提供することによって相続財産の維持又は増加に寄与した被相続人の親族には,相続人に対し,寄与に応じた金銭(特別寄与料)を請求できることとなり(10501項),相続人が複数いる場合には,法定相続分又は指定相続分の限度で,各相続人にこれを請求することができるようになりました(同条5項)。なお,特別寄与料の支払についての協議が整わない又は協議することができない場合には,一定期間内に限り,家庭裁判所に審判を申し立てることができます(同条2項)。 

(3)適用開始時期 

 201971日から施行されていますが,同日前に開始した相続については,従来の相続法の規定によることになっています(附則2条)。 

3.その他 

(1)預貯金債権の遺産分割前における払戻し 

 以上の改正点のほかにも,改正法においては,預貯金債権につき一定額を限度として遺産分割前の払戻しを認める制度が創設されています(909条の2,家事事件手続法2003項)。
 預金口座を保有する者が亡くなり,その者に複数の相続人がいる場合,従来,銀行では,共同相続人間の紛争に巻き込まれるリスクを回避するため,共同相続人のうち1人から払戻しを求められた場合であっても,原則として,共同相続人全員の同意書および印鑑証明書の提出または遺産分割協議書等の提出を待ってから払戻しに応じるという運用が一般的に採られていました。近時,このような銀行実務を追認する最高裁判例(最決平成281219日金融法務事情20586頁)も出されていました。
 しかし,このような銀行実務が硬直的に運用されることにより,相続人においては,被相続人の債務の弁済や被相続人の葬儀費用,相続人の当面の必要生計費等の資金需要が相続開始後遺産分割未了の間に生じているにもかかわらず,共同相続人全員の同意を得なければ当該預貯金の払戻しができないという不都合が生じていました。
 そこで,このような不都合を解消し,共同相続人の資金需要への迅速な対応を可能とすべく,改正法では,共同相続人は,遺産に属する預貯金債権の相続開始時の債権額に各法定相続分の3分の1を乗じた金額(ただし,当該金額は,対象となる個々の預貯金債権ごとに算出され,また,ひとつの金融機関から払戻しを受けることのできる上限額は150万円とされています。)につき,他の共同相続人の同意を得ずに払戻しを請求することができる旨の規定が新設されました。なお,当該払戻しがなされた預金債権については,払戻しを行った相続人が遺産の一部分割によりこれを取得したものとみなされます。

(2)相続の効力 

 また,改正法においては相続人が遺言によって法定相続分を超える権利を取得した場合に,当該超過分についての権利を第三者に主張するためには登記等の権利譲渡等に関する対抗要件を備えることを必要とする旨の規定(899条の2)が新設されています。

以上

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