2020.04.10

厚生労働省による指針の告示を踏まえたパワーハラスメント防止措置の義務化について

のぞみ総合法律事務所
弁護士 大畑 駿介

1.はじめに

 令和元年5月29日に、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が成立しました。そして、同法第3条に基づき、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(以下「労働施策総合推進法」といいます。)の改正が行われたことで、パワーハラスメントの防止措置の実施が事業主の義務となりました。
 なお、改正労働施策総合推進法の施行日は令和2年6月1日とされていますが、以下の表の①又は②の要件に該当する中小事業主に関しては、令和4年4月1日までの間、パワーハラスメントの防止措置の実施は努力義務とされています。

業種 ①資本金の額
又は出資の総額
②常時使用する従業員の数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
上記以外の業種 3億円以下 300人以下

2.改正労働施策総合推進法の要点

 改正労働施策総合推進法第30条の2では、次のように、第1項で職場でのパワーハラスメントを防止するために事業主が講じるべき措置について、第2項でパワーハラスメントに関して相談を行った労働者に対する事業主による不利益取扱いの禁止について、それぞれ規定が設けられています。

 第1項 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範
    囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相
    談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなら
    ない。
 第2項 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実
    を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
 (以下省略)

3.パワーハラスメントの定義

 従前、パワーハラスメントについて、明確に定義を定めた法令は存在しなかったものの、厚生労働省設置の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」が取りまとめた提言においては、「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義されていました。
 そして、今回の改正労働施策総合推進法では、初めてパワーハラスメントの定義が法律上明文化されるに至りました。改正労働施策総合推進法第30条の2第1項によれば、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであり、③労働者の就業環境が害されるもの、という3つの要件を満たすものがパワーハラスメントに該当することになります。

4.改正労働施策総合推進法に基づく指針

(1)指針の告示
   改正労働施策総合推進法第30条の2第3項では、上で述べた職場でのパワーハラスメント防止のために
  事業主が講じるべき措置等について、指針を定めることとされています。
   これを受け、令和2年1月15日に厚生労働省より、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした
  言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(厚生労働省告示第5号)が告示
  されました。
(2)指針の内容
 ア 職場におけるパワーハラスメントの内容
   指針では、前述したパワーハラスメントの各要件の具体的内容として、以下の類型が示されています(指
  針3頁~5頁)。

  ① 優越的な関係を背景とした言動
   ・職務上の地位が上位の者による言動
   ・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者
    の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
   ・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
  ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
   ・業務上明らかに必要性のない言動
   ・業務の目的を大きく逸脱した言動
   ・業務を遂行するための手段として不適当な言動
   ・当該行為の回数、行為者の数等、その態度や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
  ③ 労働者の就業環境が害されるもの
   ・当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなった
    ため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じるも
    の

   ①の「優越的な関係を背景とした言動」といえるか否かについては、行為者と被行為者との間での職務上
  の地位の上下のみで判断されるわけではないことに注意が必要です。事業主においては、職場における職務
  上の地位に関係なく、日頃から労働者全体に対してパワーハラスメントに対する関心ないし問題意識の醸成
  を促すことが望まれます。
   また、指針によれば、③の「労働者の就業環境が害される」か否かの判断にあたっては、「平均的な労働
  者の感じ方」が基準とされます。同時に、指針では、個別の事案についてパワーハラスメント該当性を判断
  する際には、パワーハラスメントの相談を行った労働者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止め・
  認識にも配慮して事実確認を行うことが求められています(指針5頁)。

   なお、指針では、例として典型的なパワハラの類型を以下のとおり整理しています(指針6頁~9頁)。

  ① 身体的な攻撃(暴行・傷害)
  ② 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
  ③ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  ④ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
  ⑤ 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与え
   ないこと)
  ⑥ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

イ パワーハラスメントを防止するために事業主が講じなければならない措置
  指針では、職場におけるパワーハラスメントを防止するために、事業主に対し、主として①パワーハラスメ
 ントに関する方針を明確化し、これを職場内に周知させること、②労働者がパワーハラスメントに関する相談
 を適切に行うための体制を整備すること、③パワーハラスメントにかかる事後的な対応を迅速かつ適切に行う
 ことを義務付けています(指針11頁~17頁)。
  これを受け、事業主においては、例えば就業規則等の服務規律を定めた文書に、パワーハラスメントに対す
 る事業主の方針及び注意喚起を記載した上でこれを労働者に周知させる、また、パワーハラスメントに関する
 相談窓口を社内に設ける、さらに、パワーハラスメントの事実を認定した場合には、被害者の心身面のケアを
 図ることと同時に行為者に対して適切な懲戒処分を行う等の措置を講じることが求められます。

5.改正労働施策総合推進法に違反した場合の罰則

 改正労働施策総合推進法第33条第1項では、厚生労働大臣は、同法の施行に関し必要がある場合には、事業主に対し、助言、指導又は勧告をすることができるとされています。そして、同法第30条の2第1項、同条第2項の違反に基づく勧告に従わなかった事業主については、その旨が公表される場合があります(同法第33条第2項)。
 また、各都道府県労働局が、同法第30条の2第1項に基づく事業主が講じるべき措置の実施状況等について報告を求めた際に、事業主がこれに応じなかったり、虚偽の報告を行ったりした場合、当該事業主については、20万円以下の過料の支払いを命じられる可能性があります(同法第36条第1項、第41条)。

まとめ(改正のポイント)

 パワーハラスメントの防止措置の実施が事業主の義務となりました。
 事業主においては、例えば就業規則等の服務規律を定めた文書に、パワーハラスメントに対する事業主の方針及び注意喚起を記載した上でこれを労働者に周知させる、また、パワーハラスメントに関する相談窓口を社内に設ける、さらに、パワーハラスメントの事実を認定した場合には、被害者の心身面のケアを図ることと同時に行為者に対して適切な懲戒処分を行う等の措置を講じることが求められます。

以上

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