2022.04.27

株主総会資料の電子提供制度開始に向けた準備

のぞみ総合法律事務所
弁護士 吉田 元樹

 

1.株主総会資料の電子提供制度とは

 株主総会資料の電子提供制度に関する令和元年改正会社法の規定(改正会社法325条の2325条の7等)が、202291日に施行されます。電子提供制度とは、定款の定めにより、株主総会資料の内容を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載して当該ウェブサイトのアドレス等を記載した招集通知を株主に送った場合には、株主総会資料を適法に提供したものとする制度です。上場会社には電子提供制度の導入(電子提供措置の実施)が義務付けられることになり、経過措置が終了する20233月1日から同制度の下で株主総会が開催されることになります。
 これまでも株主の個別の承諾を得ることにより株主総会資料を電子的に提供することは認められていましたが、株主数が多い上場会社ではほとんど利用されておらず、また、現行のウェブ開示によるみなし提供制度は、対象となる資料が限定されていました。新しい電子提供制度は、いわば、株主総会資料の提供方法について原則と例外を逆転させるものといえます。これにより、印刷・郵送等にかかっていた時間・費用が削減されることや、株主に対して早期に株主総会資料が提供され議案等の検討時間が確保されること等が期待されています[1]
 他方で、インターネットを利用することが困難な株主を保護する観点(いわゆるデジタルデバイドの問題)から、株主は、会社に対して電子提供の対象となる資料の交付を請求できるようになっています(書面交付請求。改正会社法325条の51項)。この際、定款の定めにより、書面交付請求を行った株主に交付する書面の記載事項の一部(従来のウェブ開示事項に相当します。)を省略することも認められています(同条3項)。書面交付請求は、招集通知が発出されるまで(議決権行使の基準日が定められている場合は、当該基準日まで)に行われる必要があります(同条2項参照)。

 

2.電子提供制度導入のための定款変更

  施行日(202291日)時点における上場会社[2]は、同日を効力発生日として電子提供措置を実施する旨の定めを設ける定款変更決議を行ったものとみなされます(整備法102項)。もっとも、書面交付請求を行った株主に交付する書面の記載省略を行うための定款変更については上記のようなみなし規定が存在しないため、上場会社の多くは、2022年中の定時株主総会において、書面交付請求に関する定款変更に加え、(みなし規定を利用せずに)電子提供措置の導入そのものに関する定款変更を行うことになると思われます。
 この定款変更にあたっては、全国株懇連合会の定款モデルが参考になります。

 

3.来年の株主総会までに対応又は検討すべき事項

  上記で述べた定款変更以外にも、電子提供制度を導入するにあたり対応等が必要な事項があります。

  (1) 株主への周知

 電子提供制度の下で招集通知に記載される事項は、①株主総会資料を掲載するウェブサイトのアドレス、②株主総会の日時・場所、③株主総会の目的事項など、株主がウェブサイトにアクセスすることを促すために重要な事項に限定されています(改正会社法325条の42項)。そのため、招集通知をはがき一枚で作成することも可能です。
 しかしながら、現時点において、機関投資家等以外の一般の株主に対して電子提供制度の内容が十分に周知されているとはいえません。そのため、これまでとは全く異なる内容の招集通知を受け取った株主が来年の株主総会直前になって混乱する事態や、会社が書面交付請求の期限後に当該請求を受けるという事態が懸念されます。このような事態を避けるため、本年の株主総会の招集通知や決議通知において電子提供制度の説明資料[3]を同封することが考えられます。会社のホームページで周知を図ることも考えられますが、株主が会社のホームページを閲覧しているとは限らないため、説明資料等を株主に直接提供することが望ましいと思われます。

 
 (2) 登記の変更

 電子提供措置をとる旨の定款の定めを設けた場合には、その効力発生日から2週間以内に登記を行う必要があります(会社法9151項)。この点について、みなし定款変更規定が適用される施行日(202291日)時点の上場会社[4]については施行日から6か月以内に登記を行えば足りることとなっています(整備法104項)。もっとも、施行日から登記までに他の登記を行う場合は、電子提供制度に関する変更登記も併せて行う必要がある点(同条5項)に注意する必要があります。


  
(3) シナリオ等の変更

 従来の株主総会シナリオでは、議事進行にあたって手元の招集通知を参照してほしいといった説明を行う場面が多く見られました。電子提供制度の下では、招集通知を参照する代わりに会場に設置したスクリーンにビジュアル資料を投影することが考えられ、これに伴いシナリオも変更する必要があります。

 
 (4) 書面交付請求株主の管理

 書面交付請求の効力は、その後に開催される全ての株主総会に関して継続することとなっています(改正会社法325条の51項参照)。この点について、会社は、(i)株主が書面交付請求の日から1年を経過したときは、当該株主に対して書面の交付を終了する旨を通知するとともに、(ii)これに異議のある場合は一定の期間内に異議を述べるよう催告することができ、(iii)催告期間内に当該株主が異議を述べなければ当該株主が行った書面交付請求は効力を失うこととされています(同条4項・5項)。
 異議催告が可能となる日と株主が異議申述をした日は株主ごとに異なるため、会社は、これらの日がいつであるかという点を株主ごとに管理することが必要になります。このような管理のための負担が印刷費用等の削減効果よりも大きくなる場合には、電子提供措置と併せて全株主に従来と同範囲の書面を交付することも選択肢になるという指摘もあるところです。

 

以上


[1] 竹林俊憲編著『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務、202111

[2] 改正会社法は電子提供制度が利用できる株式会社の範囲を限定していないため、書面投票制度を採用する会社又は取締役会設置会社であれば、上場会社以外であっても電子提供制度を採用することができます(改正会社法325条の31項)。もっとも、上場会社については、株主総会資料を金融商品取引所のウェブサイトに掲載することにより、自社のウェブサイトのサーバーダウン等により電子提供措置が中断するリスクに備えることができますが、金融商品取引所のウェブサイトへのアップロード権限を有しない非上場会社では、このような方法を採ることができません。そのため、招集通知の早期発送の要請が高いとはいえない非上場会社が電子提供制度を導入する場合には、上場会社とは異なる観点からの検討が必要であると考えられます。

[3] 信託協会が作成した資料や日本証券業協会が作成したリーフレット等を利用することが考えられます。

[4] 施行日前に任意に定款変更の決議を行った会社も同様であると解されています(神田秀樹ほか「〈座談会〉令和元年改正会社法の考え方」旬刊商事法務22301516頁)。

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