2025.10.16
施行から2年・景表法ステマ規制の執行動向~措置の対象となる表示類型から確約手続まで~
のぞみ総合法律事務所
弁護士 山田 瞳
1 はじめに
令和5年10月1日に景表法5条3号の規定に基づくステマ告示の施行によってステマ規制が導入されてから、今月で2年が経過し、当局による措置命令も相当数蓄積して、措置命令の対象となった表示の傾向を把握できるようになりました。また、令和6年10月1日には、令和5年改正景表法で新設された確約手続[1]も導入され、今日までに、ステマ規制違反疑いに係る確約計画が、複数、当局によって認定・公表されています。
ステマ規制違反を理由とした措置命令の対象表示や、当該違反疑いに係る確約計画が認定されるための条件の傾向を正しく把握することは、企業が、当該違反の予防措置や、違反疑いによる調査での手続・対応を適切に講じるために必要不可欠です。
2 ステマ規制違反(※確約手続については違反疑い。以下、総称して「ステマ規制違反等」という。)に対する当局の執行動向
(1) ステマ規制違反等に対して当局が講じ得る3つの措置
景表法では、ステマ規制違反に対する従前からの措置として、①行政指導と、行政処分である②措置命令が予定されており、これらの主体は、国(消費者庁長官)と都道府県(知事)です。なお、課徴金納付命令は、ステマ規制違反に対しては適用されません。
令和6年10月1日施行の令和5年改正景表法で、不当表示の疑いのある表示等をした事業者が自ら是正措置計画(確約計画)を作成・申請し、消費者庁から認定を受けたときは、当該行為について措置命令等の行政処分の適用を受けないこととする措置である確約手続が新設されたところ、ステマ規制違反疑いの表示も、③確約手続の対象です。確約手続の通知や認定の主体は、国(消費者庁長官)です。
(2) ステマ規制違反等に対する当局の措置の動向
令和5年10月1日のステマ規制開始から今日までのステマ規制違反等に対する当局の各措置の件数(公表されているものに限る。)は、下記【表1】のとおりです。
【表1・ステマ規制違反等に対する当局の各措置の件数】
国 | 都道府県 | ||||
行政指導 | 確約手続 (R6.10.1施行) |
措置命令 | 行政指導[2] | 措置命令 | |
令和5年度 | 2 | -(未施行) | 0 | -(不明) | 0 |
令和6年度 | 5 | 0 | 5 | -(不明) | 1(東京都) |
令和7年度 (~R7.10.16現在) |
-(不明) | 3 | 0 | -(不明) | 0 |
計 | - | 3 | 5 | - | 1 |
また、ステマ規制違反として措置命令の対象となった計6件と、ステマ規制違反疑いとして確約手続の対象となった3件で、問題とされた(違反認定され又は違反の疑いがあるとされた)表示の内容は、下記【表2】のとおりです。なお、類型については、3(1)で後述します。
【表2・ステマ規制違反等の事案において問題とされた表示の内容】
No | 日付[3] | 措置 | 事業者 | 問題とされた表示の内容 | 類型 | |
Ⅰ | Ⅱ | |||||
1 | R6.6.6 |
国 |
医療法人Y | 開設する内科診療所に関するGoogle Map上のプロフィールのクチコミ欄に掲載された、当該診療所の評価に係る「★★★★★」(星5)の45件の投稿(実際は、ワクチン接種のために来院した患者に、「星5」等のクチコミ投稿をすることを条件に、ワクチン接種の費用を割り引くと伝えていた)。 | ● | |
2 | R6.8.8 | 国 措置命令 |
R社 | 自社サイトの「お客様の声」等の箇所に抜粋する等して掲載された、第三者がInstagramに投稿したR社のサービスについての記事(実際は、第三者に対して対価を提供することを条件に当該サービスについての投稿を依頼していた)。 | ● | |
3 | R6.11.13 | 国 措置命令 |
T社 | 自社サイトの「Instagramで注目度上昇中」等の箇所に一部抜粋する等して掲載された、第三者がInstagramに投稿したT社の商品についての記事(実際は、第三者に対して当該商品の無償提供及び対価の提供を条件に当該商品についての投稿を依頼していた)。 | ● | |
4 | R7.3.17 | 国 措置命令 |
医療法人S | 開設する歯科診療所に関するGoogle Map上のプロフィールのクチコミ欄に掲載された、当該診療所の評価に係る「★★★★★」(星5)の9件の投稿(実際は、歯列矯正サービスを受けるために来院した患者に、「星5」等のクチコミ投稿をすることを条件に、5000円分ギフトカード提供又は5000円割引きと伝えていた)。 | ● | |
5 | R7.3.25 | 国 措置命令 |
R社 | 自社サイトの「“わたしも”使っていますfrom Instagram」の箇所に一部抜粋する等して掲載された、第三者がInstagramに投稿したR社の商品についての記事(実際は、第三者に対して当該商品の無償提供をしてR社が指示する方針に沿った投稿をすること等を依頼していた)。 | ● | |
6 | R7.3.28 | 東京都 措置命令 |
D社 | 自社サイトの「Instagramでも大人気!」等の箇所に抜粋する等して掲載していた、第三者がInstagramに投稿したD社の商品についての記事(実際は、第三者に対して対価を提供することを条件に投稿をすることを依頼ししていた)。 | ● | |
7 | R7.8.28 | 国 確約手続 |
L社 | 1. HOT PEPPER Beautyサイトに掲載された各店舗のページ内のクチコミ表示欄における各評価項目に掲載された、第三者による「★★★★★」(星5)の口コミ投稿(実際は、当該クチコミを投稿することを条件に、当該第三者が次回店舗を利用する際に支払う施術料金から500円を割り引くことを伝えていた)。 2. HOT PEPPER Beautyサイトに掲載された各店舗のページ内のクチコミ表示欄における各評価項目に掲載された、従業員による「★★★★★」(星5)の口コミ投稿 |
● | |
8 | R7.9.19 | 国 確約手続 |
A社 I社 |
販売サイトの「使ってみた方の感想 Instagramでの投稿レビュー」の箇所等に抜粋する等して掲載していた、第三者がInstagramに投稿した対象商品についての記事(実際は、第三者に対して当該商品の無償提供を条件に投稿を依頼していた)。 | ● | |
9 | R7.9.19 | 国 確約手続 |
I社 | 自社サイトの「レンチン5分のご褒美ご飯 SNSでも話題に!」との表示箇所等に抜粋する等して掲載していた、第三者がInstagramに投稿した対象商品についての記事(実際は、第三者に対して対価提供を条件に投稿を依頼していた)。 | ● |
3 執行動向から読み解く傾向と対策
(1) ステマ規制違反等による措置の対象となる表示類型
【表2】の9事案でステマ規制違反等として問題とされた表示内容は、次のとおり、2つの類型であることが見て取れます。
1つ目は、Google Map等の広告主以外の事業者が提供するプラットフォームサービスのサイト上の、広告主の商品・サービスのクチコミ欄に、第三者(又は従業員(No.7))をして高評価のクチコミ投稿をさせる類型(類型Ⅰ)です。【表2】のNO.1、4、7の事案です。
2つ目は、自社サイトや商品サイトといった公式サイト上の、広告主の商品・サービスの感想・体験談等の欄で、SNS上で第三者が投稿した当該商品・サービスの使用感等についての投稿記事を、抜粋する等して掲載する類型(類型Ⅱ)です。【表2】のNo2、3、5、6、8、9の事案で、いずれにおいても、事業者から当該第三者に、対価提供又は対象商品・サービスの無償提供を条件とした投稿依頼がなされていたと認定されています。
これらの2つの類型だけが措置の対象とされてきた理由について、当局の見解は示されていませんが、当局のステマ調査の限界から来るものと考えられます。すなわち、景表法で不当表示とされるステマとは、実際には事業者が行っている表示であるのに、そのことが一般消費者に判別困難なものをいうところ、一般消費者に判別困難ということは、調査をする当局にとっても、表示の外見だけからは、事業者の作成への関与の可能性を探知できず、ステマ疑いの端緒を得ることが難しいことが通常です。もっとも、ステマの中でも、類型Ⅰは、例えば、「★★★★★」等の高評価クチコミが、不自然に短期間にまとまって数多く付けられているといった点で、また、類型Ⅱは、例えば、公式サイト上の「お客様の感想」欄に、第三者のSNSの高評価記事が抜粋されて掲載されているが「PR」・「広告」等の表示がないといった点で、いずれも、当局が閲覧できる客観的な表示の外見から、広告主が当該表示の作成に関与した可能性を探知することが可能で、比較的容易にステマ疑いの端緒を得ることができると考えられるのです。
(2) 事業者が講じうる対策その1・予防策の見直し
類型Ⅰ及びⅡの類型は、今後も引き続き当局によって厳格に取り締まられることが確実ですので、現在実施している表示はすぐに取り下げ、今後同様の表示は絶対にしない等、禁止の徹底が必須です。
他方、前記のように、当該2類型に限定した措置が続いている理由がステマ調査の限界によるものにすぎないと考えれば、今後の調査の進展によっては、これらの類型以外のステマに対して措置が及ぶことも容易に想定されます。よって、ステマ規制運用基準でステマに当たるとの考えが示されている表示類型に対しては、これに該当しないよう、細心の注意を払う必要があります。
(3) 事業者が講じうる対策その2・調査対象となった場合の対応
令和5年改正前の景表法下では、ステマ規制違反を含む不当表示の疑いを理由とした調査の対象となった場合、不当表示該当性を争いようのない事案では[4]、事業者は、措置命令を受け入れるか、情状酌量により行政指導への軽減を求めるかといった選択肢しかなく、同様に、当局は、事業者が不当表示を認めた場合であっても、措置命令か行政指導のいずれかしか選択肢がありませんでした。
これに対し、同改正に伴い、令和6年10月1日以降は、確約手続という第3の選択肢ができ、前記【表2】及び下記【表3】のとおり、ステマ規制違反疑いの表示に対しても確約手続は適用されています[5]。
なお、ステマ規制違反疑いに確約手続が適用される際の事業者の懸念の1つに、事業者が作成・申請する確約計画に一般消費者に対する返金措置を盛り込むことが、消費者庁の認定を受けるための必要条件となるのではないかという点があったと考えられますが[6]、【表3】の赤字部分のとおり、今日までに実際に認定された確約計画の内容からは、優良/有利誤認表示疑いについては、いずれも返金措置が含まれているのに対して、ステマ規制違反疑いについては、いずれも返金措置を含まずとも認定に至っていることが読み取れます。よって、ステマ規制違反疑いに係る確約計画では、返金措置を認定の必要条件とまではしないというのが消費者庁の考えといえそうです。
【表3】確約手続で認定された確約計画の概要
No | 認定日 | 事業者 | 被疑行為 | 認定された確約計画の概要 | ||||||
優良 誤認 |
有利 誤認 |
ステマ | 被疑行為取り止め[7] | 周知措置[8] | 再発防止措置 | 返金措置[9] | 報告措置[10] | |||
1 | R7.2.26 | C社 | - | ● | - | ● | ● | ● | ● | ● |
2[11] | R7.8.28 | L社 | - | ● | ● | ● | ● | ● | ▲ステマ疑いは除外[12] | ● |
3[13] | R7.9.19 | A社 I社 |
- | - | ● | ● | ● | ● | - | ● |
4[14] | R7.9.19 | I社 | ● | - | ● | ● | ● | ● | ▲ステマ疑いは除外[15] | ● |
5 | R7.9.26 | B社 | - | ● | - | ● | ● | ● | ● | ● |
以上により、現行法下では、事業者は、ステマ規制違反疑いを理由とした調査開始後、ステマ該当性を争いようのないときには、調査の序盤から、消費者庁に対し、自ら積極的に、確約手続に付すことを希望する旨申し出る等の措置を講じることも考えられます。
以上
本記事に関するお問合せは、執筆者である山田瞳弁護士に直接ご連絡いただくか、又は弊所ウェブサイトのお問合せフォームまでお問合せください。
[1] 確約手続の流れは、消費者庁「【令和6年10月1日施行】改正景品表示法の概要」4ページのフローがわかりやすい。
[2] 非公表のため件数不明。但し、東京都の令和6年度インターネット広告表示監視事業及びSNS等広告表示監視事業では、インターネット広告30件、SNS等広告68件に対して、ステマ規制違反を理由とした改善指導が行われている。
[3] 措置命令日又は確約手続認定日を指す。
[4] 不当表示該当性を争う余地のある場合には、措置命令の要件を正面から争うことも選択肢となる。
[5] 【図2】のNo.3、4、5では、確約手続の施行日よりも後に措置命令が下されている。確約手続通知を行うことができるのは措置命令に係る弁明の機会の付与通知がなされるまでとされていることから(景表法26条ただし書き)、これらの事案では、施行日までに弁明の機会付与通知の準備が整っていた等の調査の進捗上の事情等により、確約手続の対象とはならなかったものと推察される。
[6] ステマには課徴金納付命令の適用がなく、措置命令でも返金命令を含まないのが通例であることから、確約手続の認定で返金措置を必要条件とする運用がなされると、事業者が確約手続を選択するインセンティブがそがれると考えられる。確約手続運用基準では、返金措置は、確約計画に係る「措置内容の十分性を満たすために有益であり、重要な事情として考慮する」と記載されている。
[7] 当該行為と同種の行為を行わない旨を取締役会決議で決議すること等。
[8] 当該行為の内容について一般消費者に周知徹底すること等。
[9] 当該行為を行っていた期間に対象商品等を購入した一般消費者に対し、支払いを受けた金員の一部を返金すること等。
[10] 左記各措置の履行状況を消費者庁に報告すること等。
[11] 【表2】のNo.7と同じ。
[12] 有利誤認表示の疑いのある行為を行っていた期間に対象のクーポンを利用した一般消費者に対し、支払われた料金の一部を返金することを内容とするもの。
[13] 【表2】のNo.8 と同じ。
[14] 【表2】のNo.9と同じ。
[15] 優良誤認表示の疑いのある行為を行っていた期間に対象商品を購入した一般消費者に対し、購入金額の一部を返金することを内容とするもの。