2026.07.06
改正保険業法(2026年6月1日施行)の概説~保険代理店が留意すべき事項(その2)
のぞみ総合法律事務所
弁護士 吉田桂公
(「その1」からの続き)
3 特定大規模乗合保険募集人の体制整備義務
(1)概要
特定大規模乗合保険募集人とは、大要、手数料が20億円以上の乗合代理店が該当しますが[1]、特定大規模乗合保険募集人に係る体制整備については、次の措置等が定められています。
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①法令等遵守責任者の設置 |
(2)法令等遵守責任者の設置
(施行規則215条の4第1項1号、227条の17、監督指針Ⅱ-4-2-15-3(1))
ア 法令等遵守責任者の設置義務
特定大規模乗合保険募集人は、保険募集の業務を行う営業所又は事務所ごとに法令等遵守責任者を設置しなければなりません[2]。
イ 法令等遵守責任者の業務内容
法令等遵守責任者とは、当該営業所又は事務所において保険募集の業務を行う役員又は使用人に対し、これらの者が法令等(法令、法令に基づく行政官庁の処分又は定款その他の規則をいいます。)を遵守して保険募集の業務を実施するため必要な助言又は指導を行う者をいいます。この業務内容として、当該営業所又は事務所の役員又は使用人から保険募集の業務に関する相談を受け付けて回答することや保険募集の業務に関する研修を実施すること等が考えられますが、必ずしもこれらに限られるものではありません(パブコメ結果2[3]No.72等)。
そして、法令等遵守責任者は、上記の助言又は指導を的確に実施するため、統括責任者による指揮の下、自らが担当する営業所又は事務所の保険募集の実態(保険会社等からの便宜供与の状況等を含みます。)を把握し、その適切性について定期的な検証(便宜供与による比較推奨販売への影響の有無に係る確認・検証等を含みます。)を行い、その結果を統括責任者に報告するとともに、不適切と認められる場合には、改善に向けて適切な措置を講じる必要があります。また、法令等遵守責任者は、自らが担当する営業所又は事務所の法令等遵守の状況等について、保険会社等又は監督当局の求めに応じて、適切かつ十分な説明を行う必要があります。
後述のとおり、法令等遵守責任者は募集業務に従事すること(いわゆるプレイング・マネージャー)は否定されませんが、上記の業務内容を踏まえると、実際は、募集業務に割ける時間は多くはないと思われます(募集業務に従事する時間が長い場合は、法令等遵守責任者としての役割・責任を果たしていないと見られるおそれがあります。)。
ウ 法令等遵守責任者にふさわしい人材
法令等遵守責任者は、「その業務を的確に遂行するに足りる能力を有する者」である必要があり、保険募集の業務を行う役員又は使用人に対し、これらの者が法令等を遵守して保険募集の業務を実施するため必要な助言又は指導を行うことができるように、法令や保険契約に関する知識等を有する人材を選任する必要があります。実務上は、法令等遵守責任者資格の取得が必要です[4]。
なお、「コンプライアンス・監査部門等での業務に従事した経験を有する者を選任することも、法令等遵守責任者の職務の実効性を確保する観点からは望ましい」(パブコメ結果1[5]No.94等)とされています。
エ 法令等遵守責任者は募集業務に従事してもよいのか
法令等遵守責任者が保険募集行為を行うことは禁止されませんが、その趣旨に鑑みれば、保険募集の業務に従事する者や、保険募集の挙績に係る責任を有する者とは異なる者が法令等遵守責任者となることが望ましいとされています(パブコメ結果2No.68等)。
オ 法令等遵守責任者は複数の営業所等の兼務は可能か
特定大規模乗合保険募集人は、原則として、保険募集の業務を行う営業所又は事務所ごとに法令等遵守責任者を設置する必要がありますが、「法令等遵守責任者としての業務の実施に支障を及ぼすおそれがない場合」は、他の営業所・事務所の法令等遵守責任者を兼務することが可能です。当該場合に該当するか否かは、「例えば、法令等遵守責任者が担当する営業所又は事務所の数や規模、当該営業所又は事務所における契約件数、当該営業所又は事務所に所属する保険募集人の数、営業所又は事務所間の地理的近接性等の要素も踏まえつつ、法令等遵守責任者としての業務が実効的に実施可能であり、役割や職責が十分に果たされているかに照らして判断する」とされています。この点について、パブコメ結果2No.71において、金融庁は、「地理的近接性を考慮する際に、速やかに対応を要する可能性があることを想定し、公共交通機関を用いて移動する際に1時間程度で移動可能な範囲であれば兼務が可能と考えて差し支えないでしょうか」との問いに対して、「個別の事例にかかるご照会には回答を差し控えます」としながらも、「御意見の例を一概に否定するものではありません」との見解を示しており、「1時間程度で移動可能な範囲」か否かという点は、地理的近接性を考える上で参考になると思われます。
(3)統括責任者の設置
(施行規則215条の4第1項2号、227条の18、監督指針Ⅱ-4-2-15-3(2))
ア 統括責任者の設置義務
特定大規模乗合保険募集人は、本店又は主たる事務所に、法令等遵守責任者を指揮するとともに、特定大規模乗合保険募集人の役員又は使用人に対し、これらの者が法令等を遵守して保険募集の業務を実施するため必要な助言又は指導を行う者(統括責任者)を設置しなければなりません[6]。
なお、統括責任者が業務を的確に遂行するために、統括責任者が行う業務を補助する者又は部署を設置することが望ましいとされています(パブコメ結果2No.75等)。
イ 統括責任者の業務内容
統括責任者は、上記の助言又は指導を的確に実施するため、法令等遵守責任者等を通じて、自社の保険募集の実態(保険会社等からの便宜供与の状況等を含みます。)や法令等遵守責任者の業務の内容を把握し、その適切性について定期的な検証(便宜供与による自社の比較推奨販売への影響の有無に係る確認・検証等を含みます。)を行うとともに、不適切と認められる場合には、改善に向けて適切な措置を講じる必要があります。さらに、統括責任者は、自社の法令等遵守の状況等について、取締役会等の経営陣へ定期的に報告する必要があり、保険会社等又は監督当局から求めがあった場合には、適切かつ十分な説明を行う必要があります。
ウ 統括責任者にふさわしい人材・地位
統括責任者は、「統括責任者としての業務を的確に遂行する能力を有すること」[7]及び「統括責任者としての業務を適切に実施することができる管理的又は監督的地位にあること」が要件として求められており、法令等遵守責任者を指揮するとともに、役員又は使用人に対し、これらの者が法令等を遵守して保険募集の業務を実施するため必要な助言又は指導を行うことができるように、法令や保険契約に関する知識等を有し、業務を適切に実施することができる管理的又は監督的地位にある人材が選任される必要があります。この点、統括責任者は、原則としてコンプライアンス部門等の責任者や担当役員の地位にある者を選任することが想定されていますが、統括責任者としての業務を適切に実施することができる管理的又は監督的地位にある限り、保険募集に現に従事していないことが前提としつつも、その他の役職にある者を選任することも否定されるものではありません。ただし、この場合であっても、コンプライアンス部門や監査部門での業務に従事した経験を有する者を選任することが望ましいとされています(パブコメ結果1No.109等)。
また、当該特定大規模乗合保険募集人において統括責任者としての業務を適切に実施することができる管理的又は監督的地位にある限り、部長以上や取締役など、特定の役職についていることを求めるものではないとされていますが(パブコメ結果2No.89、90)、実務上は、取締役・執行役員・部長といった職位が適任であると考えられます。
エ 統括責任者と法令等遵守責任者の関係
統括責任者と法令等遵守責任者の関係については、実態として業務上の指揮・命令を行う運営が確保されている限りにおいては、必ずしも統括責任者が法令等遵守責任者の人事に関与する必要はないですが、統括責任者には、法令等遵守責任者を指揮するとともに、役員又は使用人に対し、これらの者が法令等を遵守して保険募集の業務を実施するため、必要な助言又は指導を行うことが求められていることから、これらの役割の実効性が十分に担保されるよう、統括責任者と法令等遵守責任者や役員・使用人等との指揮・命令系統のほか、統括責任者の権限と責任を明確にしておくことが望ましいとされています(パブコメ結果1No.117)。
オ 統括責任者の営業部門からの独立性
統括責任者は「保険募集に現に従事していないこと」が要件として求められており、特定大規模乗合保険募集人は、営業部門からの独立性を確保した上で統括責任者を設置するとともに、統括責任者がその業務を適切に遂行できるよう、必要な人員の配置を含めた体制整備を行う必要があります。「営業部門の中に統括責任者を要する部署(業務品質部門)があること」や「管理部門(営業と一線を画す部門)にない」ことのみをもって、当該要件該当性が否定されるものではないですが、例えば、統括責任者が営業部門長の指揮・監督下にある場合は、営業部門からの独立性の確保や統括責任者としての適切な機能の発揮が困難となる場合がありますので(パブコメ結果2No.80)、避けるべきです。
なお、財務局に保険募集人として登録されていたとしても、実際に保険募集に携わっていなければ、「保険募集に現に従事していないこと」との要件は満たされます(パブコメ結果2No.91)。
(「その3」に続く)
本記事に関するお問合せは、執筆者である吉田桂公弁護士に直接ご連絡いただくか、又は弊所ウェブサイトのお問合せフォームまでお問合せください。
[1] この判断基準の詳細については、金融庁ウェブサイト掲載の以下の資料を参照。https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20260330/04.pdf
[2] 新たに特定大規模乗合保険募集人に該当することとなった日から起算して6か月以内に法令等遵守責任者を設置する必要があり、また、法令等遵守責任者として設置した者が欠けたときは、当該事由が発生した日から起算して3か月以内に新たに法令等遵守責任者を設置する必要があります。後述の統括責任者の設置についても、同様です。
[3] https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20260330/01.pdf
[4] https://www.sonpo-dairiten.jp/daigaku/hourei_jyunsyu.html、https://www.seiho.or.jp/exam/complianceofficer/
[5] https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20260330-2/01.pdf
[6] 法令等遵守責任者を指揮するという統括責任者の業務内容に鑑みれば、統括責任者は、当該特定大規模乗合保険募集人の本店又は主たる事務所に1名設置すべきです(パブコメ結果2No.75等)。
[7] 「法令等遵守責任者ではないこと」が統括責任者の要件の一つとなっていますが、統括責任者も法令等遵守責任者資格の取得が必要です。