2026.07.13
改正保険業法(2026年6月1日施行)の概説~保険代理店が留意すべき事項(その3)
のぞみ総合法律事務所
弁護士 吉田桂公
(「その2」からの続き)
3 特定大規模乗合保険募集人の体制整備義務
(4)苦情の処理に関する措置
(施行規則215条の4第1項3号、227条の19、監督指針Ⅱ-4-2-15-4(2))
特定大規模乗合保険募集人は、以下の苦情処理態勢を整備する必要があります。[1]
| ① 苦情を受け付けたときは、遅滞なく、当該苦情に係る事項の原因を究明すること(真因分析) ② 原因の究明の結果に基づき、改善が必要な場合には、所要の措置を講ずること(改善策の策定・実行) ③ 苦情を申し立てた者[2]から求めがあった場合には、原因の究明の結果及び講じた措置について説明を行うこと(苦情申立者への説明) ④ 苦情を受け付けるための窓口を設置し、その連絡先を公表すること(苦情受付窓口の設置・公表) ⑤ ①~④までの規定により苦情を処理したときは、次に掲げる事項を記載した記録を作成し、その作成の日から5年間保存すること(苦情対応記録の作成・保存) ・ 苦情を申し立てた者の氏名及び連絡先(氏名又は連絡先が明らかでない場合は、その旨) ・ 苦情を受け付けた日時及び場所[3]並びに苦情を受け付けた者の氏名 ・ 苦情の内容 ・ 苦情に係る事項の原因の究明のための調査の内容及び結果 ・ 苦情の受付から申し立てた者への説明に至るまでのやり取りの経緯 ・ ②の規定により講じた措置の内容 ・ ③の規定により苦情を申し立てた者に説明したときは、当該者に説明した内容及び日時 ⑥ 上記の措置に関する社内規則等を整備すること(社内規則等の整備) |
例えば、外回り中に顧客から苦情を受け付けた募集人が、「事務所に戻ってから苦情の記録をしよう」と考えて失念したり、苦情の入力が面倒で記録をしないといったことが起こると、上記⑤が実施されないことになります。こうした事態が生じないように、苦情管理の目的・必要性[4]に関する社内周知の徹底等による意識改革のほか、記録漏れが生じないような仕組み作りが重要です。例えば、会社貸与スマホに電話アプリを入れて電話内容を自動録音し、それと顧客管理システムを繋げることで自動的に苦情登録する、といった措置が考えられます。
(5)保険募集指針の策定・公表
(施行規則215条の4第1項4号、227条の21第1項第1号、監督指針Ⅱ-4-2-15-2)
特定大規模乗合保険募集人は、以下の事項等を定めた保険募集指針を策定し、その内容を顧客に周知するため、保険募集指針の書面による交付又は説明、店頭掲示、インターネットホームページの活用等の措置を講じる必要があります。また、当該指針については、定期的に検証を行い、必要に応じた見直しを行う必要があります。[5]
| ① 保険業法第294条第3項に基づき、顧客に対し、保険募集を行う保険契約の引受保険会社の商号や名称を明示すること ② 保険契約の締結に当たり顧客が自主的な判断を行うために必要と認められる情報として、保険業法第294条第1項に基づき、保険契約の内容、その他保険契約者等の参考となるべき情報を提供し、わかりやすく説明すること ③ 特定大規模乗合保険募集人における苦情・相談の受付先を明示するとともに、顧客からの苦情・相談に適切に対応する等契約締結後においても必要に応じて適切な顧客対応を行うこと |
(6)保険募集の業務に係る内部監査態勢
(施行規則215条の4第1項5号、227条の21第1項第2号、監督指針Ⅱ-4-2-15-4(3))
特定大規模乗合保険募集人は、以下の点に留意しつつ、保険募集の業務について内部監査を定期的に行うための責任者の設置、社内規則等の整備その他の体制の整備を行う必要があります。
ア 経営陣の役割・責任
(ア)人員の確保・配置
特定大規模乗合保険募集人は、その規模の大きさに加えて、二以上の所属保険会社等を有し、複数の保険会社等の保険商品を取り扱うことに伴い、適正な保険募集の管理を行うことが特に求められることから、代表取締役及び取締役会等は、このような特定大規模乗合保険募集人の特性上、内部監査が極めて重要であることを認識し、内部監査に係る責任者がその業務を適切に遂行するために必要な人員の確保・配置を行う必要があります。
なお、自社で内部監査の設置が難しい場合に外部に委託することについて、金融庁は、「外部委託先が当該代理店の内部監査を適切に行うための措置が講じられており、また、当該代理店においても、当該外部委託先による内部監査結果を踏まえ、所要の改善等を行うための措置が講じられている場合等、当該代理店自身が内部監査を行う場合と同等以上の内部監査が行われる限り」否定されるものではない、との見解を示しています(パブコメ結果2No.116)。内部監査実務に精通した弁護士等の専門家に内部監査を委託することも検討に値します。
(イ)独立性の確保
代表取締役及び取締役会等は、内部監査部門の独立性を確保し、内部監査が確実に実施されるための態勢を構築する必要があります。
(ウ)リスクベース・アプローチ
代表取締役及び取締役会等は、被監査部門におけるリスク管理状況等を踏まえた上で、内部監査計画を承認するとともに、内部監査の結果を踏まえて適切な措置を講じる必要があります。
被監査部門におけるリスク管理状況等のリスクの特定・評価を行うことが重要です。社内のどこにどのような種類のリスクがあるのか、そのリスクレベルは高・中・低のどれなのか[6]、といった観点が必要です。
イ 内部監査部門の役割・責任
(ア)独立性の確保
内部監査部門は、被監査部門に対して十分牽制機能が働くよう独立し、かつ、実効性ある内部監査が実施できる態勢を構築する必要があります。
(イ)リスクベース・アプローチ
内部監査部門は、被監査部門におけるリスク管理状況等を把握した上で、リスクの種類・程度に応じて、頻度・深度に配慮した効率的かつ実効性ある内部監査計画を立案し、取締役会等の経営陣の承認を得た上で、当該内部監査計画に基づき内部監査を確実に実施する必要があります。
上記と同じくリスクベース・アプローチが重要ですが(「リスクの種類・程度」はリスクの特定・評価と同様の意味と思われます。)、「効率的かつ実効性ある内部監査計画」と「効率」が求められていることにも注目すべきです。内部監査においても、ITの活用等が検討されるべきと考えます。
(ウ)経営陣への報告
内部監査の実施に当たっては、内部監査計画に基づく内部監査の進捗状況のほか、内部監査で指摘した重要な事項について遅滞なく代表取締役及び取締役会等に報告する必要があります。
(エ)改善の取組み
内部監査部門は、内部監査報告書で指摘した問題点に関して、被監査部門に対し改善策の策定を行わせるとともに、被監査部門等による改善への取組状況を適切に管理し、その記録や証跡等を保存する必要があります。
問題点の指摘で終わることなく、改善状況についても進捗を管理し、その記録を残すことが求められます。
(オ)外部専門家への支援要請
内部監査部門は、効率的かつ実効性ある内部監査の実施に向けて、必要に応じて、外部の専門家や保険会社等に意見を求めるとともに、業務運営に反映させることが重要です。
特に、法的解釈(弁護士)やITなど、外部の専門家の支援を得る方が、効率的かつ実効的な内部監査を行えるケースは多いです。
内部監査は、企業価値の毀損防止だけでなく、企業価値の向上にも貢献するものです。外部専門家の活用は、「コスト」ではなく、成長のための「投資」と捉え、改善点を企業価値の向上に繋げるとの観点が重要です。
(「その4」に続く)
[1] 「苦情」の定義について、金融庁は、「苦情は幅広い概念であり、定義を示すことでかえって運用が硬直的になってしまう懸念があることから、パブリックコメントの回答においてその定義を示すことは適切ではなく、所属保険会社等による指導等も踏まえつつ、個々の特定大規模乗合損害保険代理店において適切に判断すべきものと考えます」との見解を示しています(パブコメ結果2(https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20260330/01.pdf)No.106~107)。
[2] 金融庁は、「苦情の申し立ての主体については、当該特定大規模乗合損害保険代理店が行う保険募集の業務に関係する者を広く含みます」としています(パブコメ結果2No.106~107)。
[3] 非対面の方法により苦情を受け付けた場合の「場所」について、金融庁は、「当該苦情を受け付けた者が所属する事務所等の拠点(複数の拠点に所属する場合には主たる拠点)をいうと考えます」としています(パブコメ結果2No.108)。
[4] 苦情を含む顧客の声は「態勢改善の材料」であり、ひいては、「長期利益の源泉」になるとの意識が重要です。
[5] なお、保険募集指針と金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律第10条に基づき作成する勧誘方針について、それぞれで定めるべき事項をまとめて一つの指針(方針)として策定・公表することも認められます(パブコメ結果2No.121)。
[6] 一般に、リスク評価は、問題発生時の影響度(損害額)と問題発生の可能性を掛け合わせて行います。