2026.08.18
カスタマーハラスメント_カスハラに対して企業として行うべき対応
のぞみ総合法律事務所
弁護士 佐藤 郁美
1.はじめに
令和7年(2025年)6月、労働施策総合推進法の法改正が行われ、企業に対して、他のハラスメントと同様に、カスハラ防止のために、雇用管理上、必要な措置を講じることが義務付けられました。また、令和8年(2026年)2月、厚生労働省は「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」 を告示しています。[1]
本法改正は令和8年(2026年)10月1日から施行されますので、本ニュースレターでは、法改正の施行に向けて、カスハラが何故いけないのか、カスハラとはどのような行為をいうのか、そして、カスハラに直面する従業員を企業としてどう守るべきか、すなわち、企業として行うべき対応について述べていきます。[2]
2.カスハラは何故いけないのか。
カスハラはパワハラと同様に、他者の尊厳を否定する“弱いものいじめ”だから、許されないのです。もちろん、顧客からのクレームは企業が成長するために重要です。企業の商品やサービスに対する正当な批判や要求である場合には、業務改善や新たな商品開発のきっかけにもなります。また、顧客の信頼を獲得・維持するためにもクレームには真摯に対応することが必要です。このため、企業は顧客からのクレームについて、それが過剰なクレームであったとしても真摯に対応してきました。でも、よく考えてください。顧客による不当な要求の受け手となるのは、立場の弱い従業員であり、経営者ではありません。他のハラスメントと同様、従業員に対してこれを許容すべきとする理由などありません。会社のために従業員を犠牲にする行為だからです。
3.カスハラは具体的にどのような行為をいうのか。具体例と判断基準
(1)カスハラに該当する行為態様
厚生労働省発行の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」[3] の9頁には、実際に企業が受けたカスハラに類する行為として、(1)長時間の電話、(2)頻繁に来店し、その度にクレームを言う、(3)大声での恫喝、罵声、暴言の繰り返し、(4)当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な攻め立て、(5)物を壊す、殺すといった発言による脅し、(6)インターネット上の投稿(労働者の氏名公開)が掲げられています。
このうち(3)、(5)については、民法上の不法行為、刑法上の犯罪行為にも該当しますので、カスハラに該当することは明らかです。また、(6)についても嫌がらせ目的が明白ですのでカスハラに該当します。(1)、(2)及び(4)は、「長時間」、「頻繁」、「執拗」といったところがカスハラとの判断の基準となりそうです。
なお、厚生労働省発行の「業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル スーパーマーケット業編」によると、過去3年間に従業員が受けたカスハラに関する相談のうち、その行為内容として、「継続的な、執拗な言動」と回答した企業の割合(84.9%)が最も高く、次いで「威圧的な言動」(75.3%)、「精神的な攻撃」(65.8%)の回答割合が高いとのことです[4] ので、威圧的な言動及び精神的な攻撃についてもカスハラと認定できそうです。
(2)正当なクレームからのカスハラ
カスハラかどうかの判断が難しいのが、正当なクレームから発展したカスハラです。最初は正当なクレームだったのが、だんだんとカスハラに変わっていく、というパターンです。対応に誠意がないと思い、逆上してカスハラに至った場合や、あるいは反対にミスに対して申し訳ないという気持ちから顧客の言いなりになり、その結果、顧客の要求がエスカレートする場合などがあります。
ですが、たとえミスがあったとしても、尊厳ある人間として扱われるべきであることは変わりません。カスハラを許容すべき理由にはなりません。顧客からの要求内容が妥当ではない場合、また、その要求を実現するための手段・態様が社会通念上相当でない場合にはカスハラに該当する可能性があります。ただし、カスハラに直面する従業員にはこの判断を行う余裕がないのが通常なので、企業が前もって、何がカスハラに該当するかを明確に定めておくべきです。
例えば、①従業員のミスに対して、教育方針の説明を執拗に求める、②ミスをした従業員本人からの直接の謝罪を執拗に求める、 ③何度も来店または電話をかけ同じ内容のクレームを繰り返す、 ④強い命令口調で話す、大声で怒鳴る、⑤外見や容姿、性別に関する差別的な言動等を行う場合には、社会通念上相当な行為とは言い難いです。ですので、このような行為に対して、会社はカスハラとみなして、組織的対応とするべきです。なお、企業が組織的対応をせず放置すると、ミスした従業員をターゲットとしてSNS等を通じてあらぬ噂を拡散する、当該従業員に対する処罰、解雇を要求する、当該従業員への付きまとい、待ち伏せ行為等に発展する可能性もあります。
4.企業として行うべき対応
では、企業は従業員をカスハラから守るためにどのような対応をとる必要があるのでしょうか。他のハラスメント防止のための対応と同様に、カスハラに対する行為指針を策定する、マニュアルをつくる、研修を行うなどは当然ですが、カスハラについては、特に、以下の対応が重要になります。
(1)自社の場合に起こりえるカスハラを例示して社内・社外の目立つ場所に掲示して、会社がカスハラと判断する行為及び当該行為に対しては従業員を守ることを従業員及び顧客に対して周知する。
(2)カスハラに該当する可能性ある行為を受けた場合に、相談できる部署や担当者をあらかじめ決めて、これを従業員に対して周知する。決して一人で対応させない、判断させないことを伝える。
(3)カスハラへは、会社が管理する施設において、人の目のあるオープンスペースにおいて複数人で対応する。[5] また、対応の状況と内容は録音・録画し、記録に残す。事実の確認できないクレームについては、調査が必要である旨伝え、カスハラ行為者から当該従業員を引き離す。
(4)従業員全員の個人情報の管理を徹底する。
5.最後に
企業及び上司には従業員の職場環境を安全なものとする義務がありますので、従業員らが、顧客から過大な要求やクレームを受けて人格や尊厳を傷つけられ、精神的ダメージを受けることのないよう体制を整える必要があります。そもそも、顧客と従業員は対等であり、顧客の感情のはけ口にさせられる立場ではありません。ですので、まずは、カスハラを行う顧客は顧客ではない、という意識を経営陣が持つことが重要です。
もう一つ、カスハラ対策で忘れてはならないことがあります。自社及び自社の従業員をカスハラ行為者とさせないことです。立場の弱い取引先やフリーランスに対して自社の従業員がカスハラをしていないか注意してください。
カスハラは、顧客が行うことも、また自社の従業員が行うことも許さないことを、企業のトップが、メッセージと行動で伝えていくことが、一番重要なカスハラ対策となります。
本記事に関するお問合せは、執筆者である佐藤郁美弁護士に直接ご連絡いただくか、又は弊所ウェブサイトのお問合せフォームまでお問合せください。
[1] https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf
[2] ハラスメント全般については、職場のハラスメント相談と通報対策ハンドブック - 民事法研究会を参照ください。
[3] https://wmp3-cf.njc-web.jp/users/12600/files/647774/67396431af4e2.pdf
[4] https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/assets/pdf/cusuhara_manual_super.pdf
[5] 企業が管理する場所ということで、カスハラに発展した場合に施設からの退去を命じることができ、退去に応じない場合には警察に通報することが可能となります。