2026.09.08

2026年8月28日付パブリックコメント結果を踏まえた比較・推奨の留意点(その2)

のぞみ総合法律事務所
弁護士 吉田 桂公

 

(前回からの続き)

3 比較・推奨の留意点

(4)顧客から「あなたに任せる」と言われた場合、どう対応すべきか?

ア 踏むべきステップと留意点

(ア)踏むべきステップ

 改正監督指針Ⅱ-4295)①Bb)は、「顧客の意向が不明確な場合であっても、保険契約の選別に当たっては、例えば、顧客が特に重視すると考えられる事項を例示するなど、可能な限り顧客の意向を把握」すること等を求めています。
 そのため、顧客から「あなたに任せる」等と言われた場合(顧客の意向が不明確な場 合)でも、その意思表示のみをもって、乗合代理店が任意に特定の保険会社又は特定の保険契約を選別し、提示・推奨することは適切ではありません(パブコメ結果No.1419等)[1]
 顧客の意向が不明確な場合は、以下の①②のようなステップを踏む必要があります(パブコメ結果No.2021等)。


① 意向の形成・明確化に努める
 保障(補償)内容、保険料水準、特約等、顧客が重視し得る事項を確認するなど、可能な限り意向の形成を促し、又は意向の明確化に努めた上で、把握した意向に沿って、合理的かつ一定の具体性を有する基準や理由等に基づき、保険契約を選別し、提示・推奨する。

② 上記の対応をしたものの明確な意向がなお確認できない場合
 顧客の理解度や負担にも配慮しつつ、それまでに把握した顧客の当初意向、顧客属性、加入目的、既加入契約、保険料水準、必要と考えられる保障(補償)内容等を踏まえて、顧客の最善の利益を勘案し、合理的かつ一定の具体性を有する基準や理由等に基づき、保険契約を提示・推奨する。

 

(イ)留意点

(ⅰ)あらかじめ特定の保険会社又は特定の保険契約を推奨することを前提に、これに適合するよう顧客の意向を形成・解釈することや、(ⅱ)あらかじめ特定の保険契約を推奨することを目的として、顧客に「おすすめを希望する」と言わせるような話法や導線を設けること[2]、(ⅲ)意向形成支援や選択肢の提示を名目として、比較推奨販売の対象を狭める目的で顧客の意向を恣意的に誘導すること、(ⅳ)手数料水準、販売目標、保険会社からの便宜供与等の代理店側の都合により、特定の保険会社又は特定の保険契約へ誘導することは、適切ではありませんので(パブコメ結果No.202122267等)、注意が必要です。

 

イ 例示項目と留意点

(ア)「顧客が特に重視すると考えられる事項を例示する」とは

 「顧客が特に重視すると考えられる事項を例示する」とは、「顧客の意向が不明確な場合に、顧客の意向形成又は顧客の意向の明確化を促すための方法の一つ」であり、その際には、「当初把握した意向、顧客属性、取扱商品、募集形態等」を踏まえつつ、商品特性や保険料水準、保障(補償)内容、特約、免責金額等、顧客の適切な商品選択に資する事項を例示することが考えられます(パブコメ結果No.80271274277等)。

 

(イ)例示の際の注意点

 改正監督指針Ⅱ-4295)①B(b)(注4)は、「顧客が特に重視すると考えられる事項を例示するに当たっては、顧客の意向を顧みず営業上の理由から恣意的に特定の保険契約へ誘導することのないよう留意する。なお、恣意的に特定の保険契約へ誘導するその行為が、内容や態様等によっては、法第300条第1項第1号及び第6号に抵触するおそれがあることに留意する」と規定しており、例示が恣意的な誘導となってはいけません。

 

(ウ)例示項目の例

a 「消費者一般又は自社顧客の平均的・一般的傾向を参考に、顧客が重視し得る事項を例示すること」について、金融庁は、これを行うこと自体は「否定されません」としながらも、「当該例示は、個別顧客の意向把握に代替するものではなく、顧客の意向形成又は明確化を支援するためのもの」であり、「その上で、把握した顧客の意向に沿って、顧客の最善の利益を勘案しつつ、合理的かつ一定の具体性を有する基準や理由等に基づき、保険契約を選別し、提示・推奨する必要があります」としています(パブコメ結果No.271274)。
 なお、「例示する事項やその提示方法に関して、顧客の意向を恣意的に誘導したり、手数料水準、販売目標、保険会社からの便宜供与等の代理店側の都合や保険募集人の主観的又は属人的な理由により、特定の保険会社又は特定の保険契約へ誘導することは適切ではありません」と指摘しており(パブコメ結果No.271274)、注意が必要です。

 

b 代理店における取扱実績を例示することについて、金融庁は、「取扱実績は、販売方針、手数料水準、便宜供与、過去の推奨方法等の影響を受け得るため、それのみを主たる理由として、特定の保険契約を提示・推奨することは適切ではありません」とし、「取扱実績等の情報を用いて特定の保険契約を推奨する場合」において、「例えば、従前、保険業法施行規則第227条の23項第4号ハに基づき、乗合代理店の店舗ごとに異なる保険会社の保険契約を取り扱っていたことを前提として、特定の保険契約を推奨するような資料や数値に基づくものであるときは、結果として、恣意的な選別・推奨と評価されるおそれが高い」としています。そして、「取扱実績等を用いる場合には、集計期間、対象契約、対象顧客、件数、集計方法・評価方法等の合理性を適切に判断した上で、それらを明確にし、顧客に誤認を与えず、恣意的な誘導とならないよう、事後的に確認・検証できる態勢を整備することも重要です」としています(パブコメ結果No.279[3]
 これまで、いわゆる「ハ方式」(代理店独自の推奨理由・基準に沿って商品を選別し、商品を推奨する方法)を採用していた代理店においては、推奨保険会社・推奨商品の取扱実績が多いことは当然であり、これを例示に用いることは、恣意的な誘導に該当するおそれがあるため、避けるべきと考えます。

 

ウ 商品内容等の差異が限定的な場合の対応方法

 乗合代理店が比較推奨販売を行うに当たり、全ての案件について、全ての取扱保険会社の商品を網羅的に見積り・説明し、又は商品の細部の差異まで一律に説明することは求められていません。ただし、保障(補償)内容や保険料水準の差異がほとんどない場合であっても、当該差異が、顧客の意向となることは考えられます(パブコメ結果No.10239等)。商品内容や保険料水準に大きな差異がない場合には、その旨を説明した上で、顧客が重視する事項に照らし、保障(補償)内容、保険料水準、特約等、顧客の判断に資する事項を分かりやすく説明することが重要です(パブコメ結果No.25281)。
 なお、商品間の差異が限定的であることを理由として、手数料水準、販売目標、取引関係、事務都合等の代理店の都合により特定の保険会社又は特定の保険契約へ誘導することは適切ではありませんので(パブコメ結果No.63)、注意が必要です。

 

エ 意向推定型を用いた意向把握の留意点

 改正監督指針Ⅱ-4223)①ア(注2)は、「顧客の意向を把握することには、例えば、性別や年齢等の顧客属性や生活環境等に基づき推定するといった方法が含まれる」として、いわゆる意向推定型の意向把握の方法について規定しています。この意向推定型と「顧客が特に重視すると考えられる事項を例示する」ことの関係について、金融庁は、意向推定型は、「例えば既契約者など、保険募集人が把握している顧客属性や生活環境等に基づき、推定の確度に十分留意しつつ、合理性・妥当性のある推定をもって意向把握を行う方法」であり、一方、「顧客が特に重視すると考えられる事項を例示する」行為は、「保険募集人が顧客の意向把握を行ったものの顧客の意向が不明確な場合において、顧客が特に重視すると考えられる事項を例示することを通じ、顧客の意向形成を促すといった態様を「可能な限り顧客の意向を把握するための方法」の一つとして例示したもの」であって、「両者は趣旨を異にする」ほか、「保険契約者等の保護の観点から、意向推定は慎重に行われる必要がある」として、「意向推定の方法を用いた意向把握を行ったことのみ」をもって、「顧客意向に沿う」ものとして、改正監督指針Ⅱ-4295)①Bb)を満たすと一律に判断されることは適当ではない、としています(パブコメ結果No.645)。
 そして、金融庁は、意向推定の方法について、「例えば、保険会社の営業職員が、第一分野又は第三分野の保険契約について、当初は潜在化している顧客の意向を顧客属性や生活環境等に基づき推定した上で、対面で顧客と双方向的なやり取りを通じて意向を説明・明確化しつつ、その変化にも対応する保険募集の場面に用いられることを想定したもの」であり、「乗合代理店において意向推定の方法を用いるとした場合には、推定した顧客の意向に基づき、複数の保険契約の中から選別・推奨が行われることとなるため、意向推定の合理性・妥当性が推奨販売の適切性に直結し得ることとなります。乗合代理店が当該方法を用いる場合には、こうした観点を十分に踏まえ、推定の確度を含め、その合理性・妥当性の確保について特に慎重な検討・判断が求められるとともに、その後の保険募集の過程において、顧客の意向を丁寧かつ明確に確認し、その結果に基づく適切な選別・推奨を行う必要があります」(パブコメ結果No.32302305等)として、「推定の確度」を含め、その合理性・妥当性の確保について特に慎重な対応を求めています。例えば、「特定の保険契約の提案を前提として当該契約に適合するよう意向を推定する場合」や、「形式的に意向推定の手法を用いながら実質的に特定の保険契約の選別・推奨を行う場合」には、一般的には、誘導又は比較推奨販売規制の潜脱に該当し得ますので、注意が必要です(パブコメ結果No.307)。

 

オ 社内規則等における規定、フローチャート等の活用

(ア)社内規則等における規定

 顧客の意向が不明確な場合の対応について、社内規則等において、例示する事項の考え方、追加確認の方法、比較説明[4]への切替え、提示・推奨理由の説明、記録・検証方法等を定めたり、商品特性、保険料水準、保障(補償)内容等、顧客が重視し得る事項をあらかじめ整理しておくこと[5]は、有効な取組みと考えられます(パブコメ結果No.255275277)。

 

(イ)フローチャート等の活用

 顧客が特に重視すると考えられる事項を例示する際に、保険募集人ごとの属人的・恣意的な対応を防止するため、乗合代理店として、顧客属性、ライフステージ、リスク特性、取扱商品等を踏まえた確認項目や募集フロー、フローチャート等を社内規則等に定め、組織的に運用することは望ましい対応の1つと考えられます(パブコメ結果No.465)。
 ただし、当該フローチャート等は、顧客の意向を適切に把握・確認するためのものであり、顧客の意向に先立って特定の保険会社又は特定の保険契約へ誘導することは適切ではありません。また、フローチャート等を用いる場合であっても、各保険募集人においては、形式的・画一的なヒアリングにとどまらず、顧客の具体的な意向、理解度、属性、リスク状況等を踏まえ、必要に応じて追加確認を行うなど適切に意向把握をする必要があります。その上で、具体的な意向に沿って比較推奨販売を行う場合、改正監督指針Ⅱ-4295)①に照らし、比較事項や提示・推奨する基準や理由等を適切に説明する必要があります(パブコメ結果No.465)。
 各代理店においては、当該フロー等の内容、運用状況、記録・検証方法、保険募集人への教育・管理・指導を整備し、恣意的な商品選別とならないよう留意することが重要です(パブコメ結果No.465)。

(「その3」に続く)


[1] パブコメ結果では、顧客が以下のように述べた場合のいずれについても、その意思表示・質問のみをもって、乗合代理店が任意に特定の保険会社又は特定の保険契約を選別し、提示・推奨することは適切ではないとされています。
・「あなたに任せる」、「あなたが良いと思う商品にする」(No.14~19)
・「お任せで」、「おすすめを提示してほしい」(No.21)
・「あなたならどこが良いと思う」(No.22)
・「営業スタッフがおすすめする商品でよい」(No.23)
・「全て任せる」、「具体的な提案をしてほしい」(No.256~262)
・「代理店に任せる」(No.263)
・「代理店に任せる」、「募集人のおすすめでよい」(No.264)
・「代理店に一任したい」(No.265)
・(複数の保険契約の間に)「有意な差がないので代理店に任せる」(No.266)
・「保険のことは分からないので、おすすめの損害保険会社でよい」(No.269)
・「担当従業員に任せる」(No.282)

[2] 重視するポイントの選択肢に、保険募集人の主観的又は属人的な判断に基づき「代理店のおすすめ」、「お任せ」等を設けて特定の保険契約へ誘導することは適切ではありません(パブコメ結果No.264)。

[3] 乗合代理店が独自に作成したランキング等の情報を用いる場合も、同様の指摘がなされています(パブコメ結果No.280)。

[4] 特定の保険契約を推奨するのではなく、規則第227条の2第3項第4号イ及び改正監督指針Ⅱ-4-2-9(5)①Aに基づき、単に、複数の保険契約を比較説明する方法。

[5] ただし、当該項目は、顧客の意向を適切に把握するための補助であり、保険募集人は、把握した顧客の意向に沿って、顧客の最善の利益を勘案しつつ、合理的かつ一定の具体性を有する基準や理由等に基づき、保険契約を選別し、提示・推奨する必要があります。当該項目の定めに基づき機械的に特定の保険契約を提示・推奨することは適切ではありません(パブコメ結果No.275)。

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