2026.09.24

2026年8月28日付パブリックコメント結果を踏まえた比較・推奨の留意点(その4)

のぞみ総合法律事務所
弁護士 吉田 桂公

 

(前回からの続き)

3 比較・推奨の留意点

(6)顧客が「見積比較は不要」と伝えた場合、どう対応すべきか?

 金融庁は、「顧客が短時間での説明や見積比較不要を希望する場合」や「顧客が詳細説明を希望しない場合」の対応方法について、以下の見解を示しています。

・ 「顧客が短時間での説明や見積比較不要を希望する場合であっても、意向把握や本来必要となる説明が不要となるものではありません。その場合でも、顧客の理解度や負担にも配慮しつつ、顧客の意向、商品特性、募集形態等を踏まえて、顧客の判断に資する事項を分かりやすく説明し、可能な限り意向の形成を促し、又は意向の明確化に努めた上で、把握した顧客の意向に沿って、顧客の最善の利益を勘案し、合理的かつ一定の具体性を有する基準や理由等に基づき、保険契約を選別し、提示・推奨する必要があります。なお、顧客が比較不要と述べたことを理由に、手数料水準、販売目標、保険会社からの便宜供与等の代理店側の都合により、特定の保険会社又は特定の保険契約へ誘導することは適切ではありません」(パブコメ結果No.24)

・ 「顧客が詳細説明を希望しない場合であっても、顧客の意向、関心事項、理解度、商品特性等を踏まえ、顧客の適切な判断に重要な事項を過不足なく説明することが重要であり、必要な情報提供まで省略できるものではありません」(パブコメ結果No.62)

したがって、顧客が「見積比較は不要」と伝えた場合でも、保険募集人は、意向把握や必要な情報提供を省略することはできず、顧客の意向、関心事項、理解度、商品特性等を踏まえ、可能な限り意向の形成を促し、又は意向の明確化に努めた上で、把握した顧客の意向に沿って比較・推奨を行う必要があります。

 

(7)顧客が「この保険会社のこの商品に加入したい」と指定してきた場合(いわゆる指名買いの場合)、どう対応すべきか?

 保険募集人による選別・提案が実質的に伴わず、顧客の主体的な判断のみにより、顧客から特定の保険会社又は特定の保険契約が指定され、その結果、加入の対象となる一つの保険契約が選択された場合には、直ちに規則第227条の2第3項第4号ロ(推奨販売)に係る対応が必要となるものではありません(パブコメ結果No.26~27等)[1]。

 ただし、その場合であっても、通常の意向把握プロセスを経る過程において、顧客の状況や意向の内容に照らし、他の保険契約についても検討の余地が認められるときには、意向把握・確認義務や比較推奨販売に係る規制の趣旨・目的を踏まえた適切な対応が求められます(パブコメ結果No.26~27等)。そして、そうした募集過程で、顧客が他の保険契約の説明を希望した場合には、当該希望に沿って適切な対応を行う必要があります(パブコメ結果No.294)。

 例えば、顧客Xが特定の保険商品Aを指定した場合でも、意向把握を行う中で、「Xのその意向に対しては、保険商品Aよりも保険商品Bの方が合致している」といったことが判明すれば(「他の保険契約についても検討の余地が認められるとき」)、それをXに説明の上、保険商品Aと保険商品Bを比較提案すべきといえます。

 

(8)保険契約の更改の場面でも、比較・推奨を行う必要があるのか?

ア 原則

 既契約の満期到来に伴う保険募集(更改)を行う場合であっても、保険募集人は、顧客が適切な理解に基づき、自主的に既契約の継続の要否や内容を判断できるよう、顧客のリスク特性や意向が変化している可能性にも留意しつつ、既契約の内容・特性等に応じて、顧客の意向を適切に把握し、当該意向に沿った提案・説明を行う必要があります(パブコメ結果No.111~112等)[2]。

 そして、既契約の満期に伴う保険募集であることのみをもって、当然に比較推奨販売に係る規定の適用対象外となるものではありません。規則第227条の2第3項第4号ロ(推奨販売)に係る対応の要否は、「二以上の比較可能な同種の保険契約」が存在するか、保険契約を選別・提案するものであるかどうかによって個別具体的に判断される必要があります(パブコメ結果No.111~112等)。

 

イ 例外

 短期の損害保険契約[3]については、その特性を踏まえると、当該契約の満期が到来することに伴い、乗合代理店において、既契約と同条件又は補償内容がほぼ変わらないプランの案内(保険募集)が行われたとしても、直ちに保険契約者等の保護に欠けるものとは言えず、一概に否定されるものではありません(パブコメ結果No.107~110等)。ただし、その場合であっても、他の保険契約の提案を望む顧客も存在すると考えられることから、乗合代理店として意向把握・確認義務を適切に履行するための対応として、顧客の希望に応じて他の保険契約を提案できることを明示すること、及び顧客のリスク状況や意向を適切に把握できるよう工夫して案内(保険募集)することが求められます(パブコメ結果No.107~110等)。

 その上で、保険募集人による選別・提案が実質的に伴うことなく、顧客の主体的な判断のみにより、既契約と同内容又はこれと大きく異ならない内容の保険契約を希望する旨が表明され、一つの保険契約が選択された場合には、直ちに規則第227条の2第3項第4号ロ(推奨販売)に係る対応が必要となるものではありません(パブコメ結果No.576等)[4]。

 以上を踏まえると、更改の際、保険募集人は顧客に対して、「他の保険会社の商品もご提案できますが、どうされますか?」といった案内を行う必要があり(顧客が他社商品の提案を希望すれば、比較・推奨を行う必要があります)、また、保険募集人は、満期時に、顧客のリスク状況(例えば、車の買替え、運転者範囲・年齢条件の変化、住所変更、使用目的の変更、家族構成の変化など)が前回契約時から変わっていないかを確認する必要もあります。

 

ウ 既契約の一部変更を行う場合

 既契約の一部変更を行う場合には、変更部分について、変更内容・程度、商品特性、顧客の理解度等を踏まえ、必要な情報提供及び意向把握・確認を適切に行う必要があります(パブコメ結果No.114等)。

エ その他のケース

(ア)保険会社が保険契約者に対し、無保険状態の回避等を目的として満期案内を直接送付し、取扱代理店が継続手続に係る保険募集に関与しない場合

 この場合、当該代理店に保険業法上の情報提供義務及び意向把握・確認義務が課されるものではなく(パブコメ結果No.571)、当該代理店が既契約者に対して既契約を引き受ける保険会社以外の保険契約を提案することまでは法令上求められていません(パブコメ結果No.605~606)。

(イ)取扱代理店が自動継続に係る保険募集に関与していない場合

この場合、当該代理店に保険業法上の情報提供義務及び意向把握・確認義務が課されるものではありません(パブコメ結果No.608)。

(「その5」に続く)


[1] なお、法令に基づく権限明示等の基本的な説明義務は適用されますので(パブコメ結果No.289)、注意が必要です。

[2] その際、既契約の保障(補償)内容や保険料水準を確認し、重複・不足、新商品・特約の有無、商品改定や保険料水準の変動等を踏まえ、必要な説明を行うことは、顧客本位の保険募集に資する取組と考えられます(パブコメ結果No.114)。

[3] 通常の自動車保険等は、これに該当すると考えられます。

[4] なお、顧客のリスク状況や意向を踏まえつつ、既契約にない特約等を付加した補償充実プランを案内・提案すること自体は、直ちに否定されるものではありません。ただし、当該補償充実プランを提示・推奨する場合には、その内容、既契約との差異、保険料への影響、主な留意点等を分かりやすく説明する必要があります。また、当該提案を行うことで、実質的に他の保険契約が「比較可能な同種の保険契約」になり得る場合には、他の選択肢があることを説明することや、顧客に追加的な意向を確認するなど、顧客の適切な商品選択の機会が実質的に阻害されないよう、適切な対応を行うことが重要です(パブコメ結果No.576)。

一覧に戻る