2019.04.03

企業が講じるべきSNS等における名誉毀損対応
(第3回 SNSでの名誉毀損に対して削除請求や発信者情報開示請求をするための手続(発信者情報開示請求編))

 のぞみ総合法律事務所
弁護士   吉田       桂公 
弁護士    村上   嘉奈子
弁護士    劉   セビョク
弁護士    鈴木    和生

 近時、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やウェブサイト上の掲示板等(以下「SNS等」といいます)が発達し、他者によるSNS等の使用を通じた企業への悪口・批判等によって、企業が風評被害を受け、信頼回復に多くの労力とコストがかかることも少なくありません。企業がSNS等による名誉毀損等への対策を講じておくこと、また、採り得る手段について学習し、備えておくことは、危機管理の観点からも重要です。
 そのような風評被害を避けるべく、企業の対応としては、当該書込みの削除を請求すること(以下「削除請求」といいます)、あるいは、匿名の書込みであれば、書込みを行った者(以下「発信者」といいます)に対し損害賠償等を請求するために、プロバイダ責任制限法に基づき、当該発信者の情報を開示するようSNS等の管理者やアクセスプロバイダに対し請求を行うこと(以下「発信者情報開示請求」といいます)が考えられます。

前回の「削除請求」に続き、今回は、「発信者情報開示請求」について紹介します。

発信者情報開示請求

(1) 発信者情報開示仮処分

 SNS等の上の匿名または偽名による書込みの発信者(投稿者)を特定するためには、まず、当該発信者が書込みの際に用いたアクセスプロバイダ(接続プロバイダ)を特定する必要があり、さらには、当該アクセスプロバイダを特定するため、SNS等の管理者側に残る発信者のIPアドレスの開示を管理者(コンテンツプロバイダ)から受ける必要があります

 削除請求と同様、SNS等の管理者によっては、任意のIPアドレスの開示請求に応じる場合もありますが、「裁判所による公的判断が下されない限り開示請求には応じられない」とのポリシーを採用する管理者に対しては、IPアドレスの開示を求める発信者情報開示の仮処分を申し立てることになります。裁判を通じてIPアドレスの開示を受けた場合には、「WHOIS」等のプロバイダ特定サービスを用いて、発信者が使用したアクセスプロバイダを割り出します。その後、アクセスプロバイダに対し、発信者情報消去禁止の仮処分の申立て発信者情報開示請求訴訟の提起を行うことになります。

(2) 発信者情報消去禁止仮処分

 各プロバイダによって差異はあるものの、多くのアクセスプロバイダにおいては、投稿から約3か月間しか当該投稿に関する記録(アクセスログ)を保管していないのが通常です。
 そのため、何らの策も講じないと、発信者情報開示請求訴訟を提起したとしても、判決を下されるまでの間に当該ログが消去されてしまうおそれがあります。
 このような事態を防ぐため、発信者がどのアクセスプロバイダを利用したかが判明した後は、アクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起する前に、当該アクセスプロバイダを相手方として、「訴訟終結までログを消去しない」よう求める発信者情報消去禁止の仮処分の申立てを行い、「訴訟終結までログを消去してはならない」旨の仮処分決定を得ておくか、またはアクセスプロバイダから「訴訟終結までログを消去しない」旨の同意書を取得しておく必要があります。

(3) 発信者情報開示請求訴訟

 アクセスプロバイダによる任意の対応または発信者情報消去禁止仮処分決定を得てアクセスログを保存したら、次はアクセスプロバイダを相手方とする発信者情報開示請求訴訟を提起します。
 アクセスプロバイダに開示を求める情報は、発信者の①氏名または名称、②住所、③電子メールアドレスです。

発信者情報開示請求訴訟を提起した後の対応

 発信者開示請求訴訟に勝訴すると、判決によって発信者情報(氏名、住所等)が開示され、発信者の特定に至った場合は、発信者に対する損害賠償請求等を検討することとなります。発信者に対して民事上の損害賠償を求めることは、再発防止の観点から有効です。

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