2019.07.16

相続法改正について(第1回)

1.はじめに

 民法のうち第5編「相続」(以下「相続法」といいます。)については,昭和55年に改正がなされて以降,約40年にわたり大きな見直しがされてきませんでしたが,その間の社会経済情勢の大きな変化を受け,相続法制の見直しを行う必要性が生じてきました。そこで,相続法に関する改正の審議が行われ,2018年7月13日に公布されました。
 今回の改正の特徴として,①配偶者保護,②遺言の利用の促進,③相続人を含む利害関係人の実質的な公平を図ること,の3点が挙げられます。
 改正相続法は,原則として2019年7月1日から施行されていますが,配偶者居住権に関する改正をはじめ,個別に施行時期が定められている場合がありますので,注意が必要です。
 まず今回は,①配偶者保護について解説いたします。特に指定がない場合,条文番号は改正後の民法における条文を指しています。

 2.配偶者の保護

 本改正では,高齢化社会の進行に対応すべく,被相続人(亡くなった方)の配偶者の生活の保護を目的として,配偶者居住権と配偶者短期居住権という制度が設けられました。
 被相続人の配偶者は,一般に,被相続人の死後も住み慣れた居宅に引き続き住みたいとの希望を有している場合が多いところ,従来の相続法上は,この希望を実現する方法として,遺言や遺産分割に基づき,当該居宅不動産を相続するという方法がありました。しかし,不動産の評価額は基本的に高額となる場合が多いため,配偶者はそれ以外の預貯金等を確保できなくなる(その結果として,場合によっては居宅不動産の相続を断念せざるを得なくなる)点が指摘されていました。
 そこで,所有権の価値を圧縮した権利として配偶者居住権配偶者短期居住権が用意されることになりました。 

(1)配偶者居住権

 社会の高齢化の進展や平均寿命の伸長に伴い,今回の相続法改正においては,配偶者が被相続人の死亡後も長期にわたり同一住居において生活し続けることができる権利(配偶者居住権)が設けられました。配偶者居住権は,遺産分割によって相続人が配偶者居住権を取得するとされたとき(1028条1項1号)や配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき(同項2号)に認められます。なお,死因贈与については,遺贈の規定が準用されるため(554条),死因贈与も配偶者居住権の発生原因となります。
 配偶者居住権が登記された場合には,その後に当該不動産の所有権を取得した第三者に対して,配偶者居住権の存在を主張することができ,その後も継続して当該不動産を使用することが可能です(10312項,605条)。しかし,借地借家法においては,「引渡し」を受けた借家権者については,これに後れて当該建物の所有権を取得した第三者に対して借家権の主張ができるとされている(同法第31条)ものの,配偶者居住権については,この条文の適用はないとされています。これは,配偶者居住権が継続している間は,当該建物の所有者は賃料すら取得できませんので,公示の必要性が高く,引渡しという不明確な対抗要件を認めるべきではないということが理由とされています。
 配偶者居住権について,他者に譲渡することは認められていませんが(1032条2項),所有者の承諾があれば,改築・増築や第三者に使用収益をさせることもできます(同条3項)。
 なお,建物を配偶者と被相続人とで共有していた場合には,配偶者居住権が消滅したときでも,配偶者は共有持分によって占有権原があるとされ,その処理は一般の共有の法理によることになります。

 (2)配偶者短期居住権

 配偶者短期居住権とは,短期的な配偶者の居住権を保護する趣旨で,原則として相続開始後,遺産分割協議が成立する日まで無償で建物に居住できる権利を認めたものです(1037条)。
 現行の裁判実務でも,被相続人所有建物に相続人が居住していた場合には,相続開始を始期,遺産分割終了を終期とする使用貸借が成立しているものと推認するとされていました(最判平成8年1217日民集50102778頁)。ただ,あくまで推認に過ぎず,被相続人が第三者に遺贈した場合等,明らかに被相続人の意思が上記の場合と異なるときには配偶者の居住権が保護されなくなるため,このような場合にも配偶者を保護すべく配偶者短期居住権が認められるようになりました。

 (3)持戻しの免除の推定

 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が,他の配偶者に対して居住不動産を遺贈ないし贈与した場合,遺産分割において特別受益としない(相続分から控除しない)旨の意思表示をしたものと推定する規定(903条4項)が新設されます。相続手続きでは,遺贈や生前贈与があった場合,特別受益として取り扱われてしまうので,一定の場合に,被相続人が配偶者のこれまでの長年の貢献に報いるために居住用不動産を残したということで,特別受益として取り扱わないよう推定するとしたものです。改正前は,被相続人において相続人に対し持戻しの免除の意思表示を行うことを必要としていたところ,法律家ではない一般人に,持戻しの免除の意思表示を求めることは酷ですので,一定の要件下で持戻しの免除を推定するという点に目的があります。
 一定の場合とは,婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が,他の配偶者に居住用不動産を遺贈又は贈与した場合をいいます(903条4項)。

 (4)適用開始時期

 配偶者居住権と配偶者短期居住権については,2020年4月1日から施行されます(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令)。持戻しの免除の推定の施行日は,2019年7月1日です(上記政令)。なお,持戻しの免除については,施行日前に行われた贈与については新法の適用は受けず,施行日以降に行われた贈与についてのみ新法が適用されることになっています。

以上

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