2020.04.17

新型コロナウイルス感染症への対応② ~不可抗力

のぞみ総合法律事務所
弁護士 鈴木 和生

不可抗力

 第2回では、新型コロナウイルス感染症が取引に与える影響や、不可抗力の考え方について解説します。

1.新型コロナウイルス感染症が取引に与える影響

 今般、新型コロナウイルス感染症が契約取引に与える影響が危惧されています。
 例えば、従業員が集団感染し、メーカー工場での生産活動を停止せざるを得なくなってしまった結果、期限までに取引先に目的物を引き渡すことができない場合や、政府の自粛要請を受けてライブハウスの営業を停止せざるを得なくなってしまい、出演予定者らに演奏場所を提供することができない場合などのように、契約によって予定されていた取引を予定どおりに実施することができない、といった事態が起こり得ます。このような場合においても、契約に基づく債務を履行することができなかった当事者は、債務不履行等の責任を問われてしまうのでしょうか。

2.不可抗力事由とは何か

 契約を締結している当事者が、その契約に基づく債務を履行しなかった場合、その当事者は、契約の相手方当事者から、損害賠償を請求されたり、契約を解除されたりする場合があります(民法第415条、第541条~第543条等)。
 一方で、債務の不履行が債務者の責めに帰すべき事由によらない場合、例えば、当該債務の不履行が不可抗力事由による場合には、債務不履行責任を負いません。このように、不可抗力事由は、当事者が債務を履行しないにもかかわらず、当該債務を履行しない当事者に対し、例外的に、免責という大きな効果をもたらすものです。なお、改正前民法においては、債務の不履行を理由に債権者が契約を解除するためには、当該債務の不履行が債務者の責めに帰すべき事由によることが必要であったのに対し、改正民法(2020年4月1日施行)では、債務者の責めに帰すべき事由がなくとも債権者からの契約解除が認められることになりましたので、注意が必要です。
 ここで、不可抗力事由とは、外部から生じ、かつ、防止のために相当の注意をしても防止することができない事由等を意味すると考えられ、その例としては、地震・洪水・落雷等の予見不可能な天災のほか、戦争等が挙げられます。このような不可抗力事由による免責は、契約書にもしばしば明記されています。
 なお、金銭の給付を目的とする債務の不履行に基づく損害賠償が問題となる場合、債務者は、不可抗力をもってしてもこれを抗弁とすることができない(民法第419条3項)、すなわち、免責を受けることができませんので、この点は注意が必要です。

3.不可抗力事由の判断

 では、今般の新型コロナウイルス感染症は不可抗力事由に該当するのでしょうか?この点、不可抗力事由の該当性は、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大のため」という抽象的な理由のみで一律に判断されるものではなく、あくまで、債務不履行となった具体的事情に照らして判断されるものと考えられます。
 例えば、冒頭に挙げたメーカー工場の例で言えば、工場内がいわゆる「三密」状態にあり、かつ、それを避ける稼働態勢を業務上容易に採り得たにもかかわらず、従来どおりの環境で業務を継続し、それが原因で従業員が新型コロナウイルス感染症に罹患し、これにより債務を履行することができなくなった場合などには、不可抗力による免責が認められない可能性が高いと考えられます。(※)
(※)厚生労働省が、「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」を公表しており、参考になります。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617721.pdf

 一方で、例えば、通常必要であると考えられる水準以上に感染防止措置を講じていたにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症に罹患し、何らかの代替手段を用いることによっても債務を履行することができなくなってしまった場合などには、不可抗力事由に当たるといえる可能性があると考えられます。
 また、例えば、政府から営業の自粛が要請されている状況において営業を自粛したことにより、債務を履行することができなくなってしまった場合も、不可抗力事由に当たるといえる可能性があると思われますが、ただ、自粛要請には強制力がないこともあり、自粛要請を受けた営業の停止(債務の不履行)が全て不可抗力事由に基づくものであるとして免責されるわけではなく、不可抗力事由該当性は、あくまで具体的事案に即して個別に判断されるものであると考えられます。
 なお、不可抗力事由による免責が認められるのはあくまで例外的なものであるため、「当該債務の不履行が不可抗力によるものであること」については、当該債務を履行できていない当事者が立証責任を負うことになります。そのため、債務を履行できない当事者におかれては、「当該債務の不履行が不可抗力によるものであること」の立証活動に耐えうるような対策をとっておくこと、例えば、債務の不履行を防止するために相当な注意を払った上、それを記録化しておくこと等が有用であると思われます。

4.まとめ

 新型コロナウイルス感染症の影響で債務を履行することができなくなった場合、それが不可抗力事由に該当し、債務不履行責任を免れるかは、具体的事情に照らして判断されるものです。新型コロナウイルス感染症が流行しているからという一事のみをもって債務不履行責任を免れるものと即断せず、不可抗力による免責が認められない場合があり得ることに留意して、対策を講じておくことが肝要です。

 以上

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