2020.04.28

新型コロナウイルス感染症への対応④ ~ 労務関係

のぞみ総合法律事務所
弁護士 松林 智紀

1.新型コロナウイルス感染症への対応

 さて、今回は新型コロナウイルス感染症対応シリーズの第4回目として、労務関係で皆様にご留意いただきたい法的事項等について解説いたします。
 労務に関わる問題は数多くありますが、本稿では紙幅の都合上概略のご説明しかできませんので、ご不明な点やご質問等がございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.nozomisogo.gr.jp/contact)までご連絡ください。

2.賃金や休業手当の要否

(1)前提

 雇用契約上の労働義務が履行不能になったことについて「債権者(=使用者)の責めに帰すべき事由」(民法第536条第2項)があれば、従業員は賃金債権を失わず、その全額を請求することができます。
 また、民法上は帰責事由がないと判断される場合であっても、使用者側の領域において生じた経営上の障害等による休業については「使用者の責に帰すべき事由による休業」(労働基準法第26条)として、使用者は平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。
 なお、労働基準法上の帰責事由もない、不可抗力による場合には使用者は賃金も休業手当も支払う義務がありませんが、この不可抗力かどうかは、
① その原因が事業の外部より発生した事故であること
② 事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること
の双方を満たすかどうかで判断すべき、というのが以前からの厚生労働省の解釈(厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(以下「厚労省Q&A」といいます。)Q4-7)です。
 なお、休業手当は労基法第24条の賃金に当たるというのが行政解釈ですので(昭和63.3.14基発150)、例えば4月の休業手当は4月の給与支払日に支払う必要があります。もっとも平均賃金の計算は煩雑ですので、場合によっては概算額を支払っておき後日調整するという対応も考えられるかと思います。

(2)従業員個人の体調等による欠勤の場合の休業手当等について

 まず、実際に新型コロナウイルスに感染した従業員がいる場合、当該従業員を就業させることはできません(感染症法に基づき都道府県知事が就業制限を行うものと思われます。)。これは通常「使用者の責に帰すべき事由」には当たりませんので、使用者は賃金も休業手当も支払う必要はありません(厚労省Q&AQ4-2。休業手当の要否について言えば通常の私傷病と同じです。)。
 次に、新型コロナウイルスへの感染は確認されていないけれども37.5度以上の発熱がある従業員の対応が問題になります。厚労省Q&AQ4-4は、このような場合会社を休むよう厚労省が呼びかけていることを前提としつつ、従業員が自主的に休む場合は通常の病欠として扱い、逆に、熱があるというだけで会社が一律に休ませるような場合は休業手当の支払を要するとしています。後者については、37.5度の発熱がある状況でも出社命令を出せるという前提でなければ成り立たない議論のように思われますので違和感がありますが、休業手当の支払がないとなると従業員本人の自覚次第では症状を秘匿ないし軽く考えて出社するリスクもあることから厚生労働省の見解に従っておくのが実務的に妥当と考えます。

(3)緊急事態宣言等に基づき事業を停止する場合の休業手当の要否

 新型インフルエンザ特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象となった地域で都道府県知事の要請・指示に基づき営業を停止する場合でも、当然に休業手当の支払が不要になるものではありません(例えば、菅野和夫「労働法第12版」p.457は「監督官庁の勧告による操業停止」を休業手当の支払が必要な場合として例示しています。)。
 結局この場合も緊急事態宣言や要請・指示があることそのものではなく、実態に即して判断すべきことになりますが、実際に感染経路不明の感染者が全国的に増加していることや、緊急事態宣言の対象となっている地域(416日以降は全都道府県)では、感染拡大防止と医療崩壊回避のために人と人との接触を8割減少させる必要があるとされていることを考えると、生活インフラとしての公共性が高い事業を除き、新型コロナウイルスという外部に起因した事象により事業場を閉鎖する必要性は高い状況にありますので、在宅勤務の可否や他の業務を行うことの可否を検討の上、行わせる業務がない状況であれば不可抗力による休業となる余地も十分あるものと考えます(考慮要素については厚労省Q&AQ4-7も概ね同旨と思われます。)。
 もっとも、無給の休業となった場合、(東日本大震災の場合のように激甚災害法に基づく雇用保険の特例措置がある場合と異なり)雇用保険から従業員に対して給付がなされるわけではないことから、従業員が困窮する場合もありうるため、企業の体力が持つならば基本的には休業手当を支給し、使用者が雇用調整助成金を受給する方向で検討するのが実務的に妥当ではないかと考えます(なお、法律上休業手当の支払義務が生じない場合でも休業手当を支払えば雇用調整助成金の対象となることは厚生労働省も認めています。厚労省Q&AQ4-6)。

3.人員整理

 今般の新型コロナウイルスの感染拡大による企業業績への影響は、業種によってもまちまちですが、業種によっては売上が前年同期比5070%ダウン等という著しい影響を受けている企業もあり、各種の経費削減策や公的支援策等によっても企業維持が図れないような場合は、最悪人員整理を実施することとなる場合もあり得ます。
 その手法として整理解雇を行う場合、当該解雇の有効性は、(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力、(3)被解雇者選定の妥当性、(4)手続の妥当性の4要素を総合考慮して判断されますので、慎重に検討する必要があります。
 また、整理解雇を行った場合は、雇用関係の助成金を受けられなかったり、助成率の特例を利用できない場合がありますので、その時点の厚生労働省の情報に注意することが必要です。

4.団体交渉

 これまでに述べたような労務問題や、あるいは全く新型コロナウイルスとは関係のない問題で労働組合から団体交渉の申入れを受けることもあろうかと思います。
 もちろん、本来団体交渉は文書のやりとりや電話による会話だけでなく、労働組合と直接会見して行うべきものです。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により緊急事態宣言が出され、人と人との接触を8割削減するよう求められている状況において、3密になりやすい直接面談を行うことは可能であれば避けたいところです。このため、労働組合から団体交渉の申入れがあった場合には、会社から労働組合に対してZoom等のWeb会議で行うことを提案することもあってよいのではないかと考えます(なお、当事務所で緊急事態宣言後に行った団体交渉では、いずれの件でも労働組合の同意を得てWeb会議形式で団体交渉を実施しました。)。

 以上

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