2020.06.22

会社法改正について(第3回)

のぞみ総合法律事務所
弁護士 劉 セビョク

1.取締役の報酬規制に関する改正

 昨今、「報酬ガバナンス」という語が普及したように、株式会社における役員報酬については、企業統治の中核をなす要素の一つとして、その在り方が見直されています。
 現行法下では、指名委員会等設置会社を除く株式会社においては、取締役の報酬等の金額等は定款又は株主総会決議によって定めることとされています(現行会社法第361条第1項)。実務上は、多くの場合、①まずは株主総会において取締役の報酬総額の上限について定めるとともに、個別の取締役の報酬額の決定については取締役会に一任し、②当該一任を受けた取締役会が、決議により代表取締役に個別の取締役の報酬額の決定を再一任する、という方式が多くの取締役会設置会社において採られています。
 しかし、この方式については、個別の取締役の報酬額の決定過程の透明性に疑義があるほか、各取締役の役割や業績に見合った金額・内容の報酬が支給されているのかが株主にとって明確ではないという点が指摘されていました。
 こうした経緯を踏まえ、改正会社法では、以下の類型の株式会社においては、定款又は株主総会決議により個々の取締役の報酬内容が具体的に定められていない場合には、その内容の決定に関する方針(以下「報酬等の決定方針」といいます。)を取締役会において定めなくてはならないことになりました(改正会社法第361条第7項)。

  • 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社である会社に限ります。)であって、有価証券報告書の提出義務がある株式会社
  • 監査等委員会設置会社(※ただし、監査等委員の独立性を確保すべく、監査等委員である取締役の報酬については適用対象から除外されています。)

 個別の取締役の報酬について、一度定めた報酬等の決定方針に違反した内容を決定した場合には、当該決定は無効であると考えられています。なお、会社が定めるべき報酬等の決定方針の事項については、今後、法務省令によって具体的に定められることとされているほか、公開会社については、当該事項を事業報告の内容に含めなければならない旨の改正が予定されています。法務省令によって今後定められる事項としては、取締役の個人別の報酬等についての報酬等の種類ごとの比率に係る決定の方針、業績連動報酬等の有無及びその内容に係る決定の方針、取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定の方法(代表取締役に決定を再一任するかどうか等を含む。)の方針等が見込まれています[1]

2.非金銭報酬に関する規律の明確化

 日本の上場会社における役員報酬は、他の先進国に比べて、金額において低く、報酬総額に占める固定報酬の割合が大きいという特徴があります。そのため、日本の上場会社の役員報酬については、その内容が役員への適切なインセンティブたり得ておらず、ひいては企業価値の向上につながっていない、という指摘がしばしばなされてきました。
 そのような実情や、コーポレートガバナンス・コード(補充原則4-2①[2])の要請もあり、近年、業績連動型報酬として、取締役に対し、自社の株式や新株予約権(いわゆるリストリクテッド・ストックやストック・オプション)を交付する会社が増加しています。一方で、現行会社法第361条第1項第3号は非金銭報酬の支給の決定に際しては、定款又は株主総会決議により「その具体的な内容」を決定する必要があると規定しているものの、「その具体的な内容」自体の内容が明らかではないという指摘がなされていました。
 このような経緯を踏まえ、改正会社法においては、報酬として自社の募集株式や募集新株予約権を取締役に対し付与する場合においては、その数の上限その他法務省令で定める事項を定款又は株主総会決議により定めなくてはならない旨が新たに規定されました(改正会社法第361条第1項第3号及び第4号)。
 また、募集株式や募集新株予約権の払込みに充てるための金銭を報酬として支給する場合(いわゆる相殺方式により募集株式や募集新株予約権を取得させる場合)においても、当該募集株式や募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項を定款又は株主総会決議により定めなくてはなりません(同項第5号)。
 現行会社法においては、募集株式や募集新株予約権の発行にあたっては、必ず金銭の払込みや財産の給付を要し、それゆえ、役員個人の持出しを避けるために上記相殺方式のようなやや技巧的かつ難解な手法が用いられていました。そこで、改正会社法は、業績連動型報酬の円滑な実施を期して、上場会社に限り、取締役の報酬等として募集株式や募集新株予約権を付与する場合には、金銭の払込み又は財産の給付を要しない旨の規定を新設しました(改正会社法第202条の2第1項第1号、改正会社法第236条第3項第1号)。この場合、募集株式や募集新株予約権の発行に係る有利発行規制は適用されないと考えられています。

3.説明義務の範囲拡大

 現行会社法において、取締役は、不確定額の金銭報酬や、非金銭報酬の決定に際して、株主総会において当該報酬に関する事項を相当とする理由を説明しなくてはなりません(現行会社法第361条第4項。なお、取締役の一般的な説明義務(会社法第314条)と異なり、株主総会において株主から当該事項について質問がなされたか否かに関わらず、議案説明の際に取締役自らが積極的に説明をしなくてはならない点に注意が必要です。)。
 改正会社法においては、株主から見た報酬決定プロセスの透明性をより確保すべく、確定額の金銭報酬についても、当該報酬に関する事項を相当とする理由を説明しなくてはならないこととなりました(改正会社法第361条第4項)。

4.施行時期

 本改正は、公布の日(2019年12月11日)から1年6か月以内に追って政令により指定される日に施行される予定です。

 まとめ(改正のポイント)

・  一定の類型の株式会社については、取締役の報酬の内容決定に関する方針を取締役会において定めなくてはならないことになりました。

・  法務省令(会社法施行規則)においてその具体的内容が定められる条項も多いことから、会社法施行規則に関する今後の改正動向にも注視が必要です。

・  上場会社については、取締役に株式や新株予約権を報酬として付与する場合には、当該取締役から金銭の払込み又は財産の給付を要しないこととなりました。

 企業価値の向上のためには、法律・税務・会計の問題をクリアしつつ、その企業に適した役員報酬制度を設計することが肝要です。是非、お気軽にご相談ください。
 次回は、役員のための補償契約やD&O保険に関する改正について取り上げます。

以上


[1] 法務省法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会 部会資料28-2(http://www.moj.go.jp/content/001279740.pdf

[2] 「経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。」

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