2022.02.17

令和3年改正特定商取引法施行~サブスクを含むBtoC・eコマースを行う全ての企業におかれては,令和4年6月1日までにカートシステムの最終確認画面の表示を見直しましょう!~ (その1)

のぞみ総合法律事務所
弁護士 山田 瞳

1 はじめに

 「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」が令和3年6月9日に成立しました。「通信販売における『詐欺的な定期購入商法』対策」のパッケージ規定は,今回の特定商取引法改正の柱の1つであり,令和4年6月1日から施行されます。
 ここでいう通信販売における「定期購入」には,健康食品等の商品の販売において「定期○○コース」等の名称で行われる定期購入契約[i]のほか,動画,音楽,雑誌等の配信,服飾品のレンタル等のサービス等で行われるサブスクリプション[ii]も含まれます。
 今回は,改正特定商取引法(以下「新法」といい,新法施行前の現行特定商取引法を「現行法」といいます。)で新設された通信販売の申込み段階における表示についての規定(新法12条の6[iii]について,「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン[iv](以下「申込み表示ガイドライン」といいます。)に沿って説明します。
 この規定は,上記の対策パッケージ規定のひとつであり,主に悪質な定期購入業者対策を念頭に置いたものではあるものの,通信販売を行う企業一般に広く適用されますので,注意が必要です[v]

2 新法12条の6の規定・総論

 ⑴ 新法12条の6の規定の意義等

 新法12条の6の規定は,通信販売を行う事業者等が定める所定の方法によって,顧客である消費者から通信販売の契約の申込みを受ける場合における表示を規律する規定です。同条1項では,この申込みを受ける際に表示することが義務づけられる事項を,また,同条2項では,この際に禁止される表示を規定しています。
 この規定の趣旨は,通信販売の申込み段階における表示が,消費者に申込みの意思表示の内容を最終的に確認させるという重要な役割を担うものであることから,所定の方法により申込み内容の確認及び申込みの意思表示が行われる場面において,消費者が必要な情報につき一覧性をもって確認できるようにするとともに,不当な表示が行われないようにしたものです。
 なお,現行法の下では,通信販売に係る契約の申込み段階における表示は,「顧客の意に反して通信販売に係る売買契約及び役務提供契約の申込みをさせようとする行為」を規定する現行法14条1項2号並びにこの規定を受けた同法施行規則16条1項1号及び同2号の規定の運用により[vi]規律されてきましたが,今回の改正により,上記の申込み段階における表示そのものを明確に規律する法律の規定が新設されたものです。

 ⑵ 新法12条の6が規定する申込みの方法

 申込みに係る所定の方法について,新法12条の6の規定は次の2つを定めます。
 ①特定の様式の書面による場合
 ②インターネットを用いて,顧客である消費者のPC,スマートフォン等の映像面に表示する手続による場合
(以下では,①及び②の方法によって顧客である消費者が行う通信販売に係る契約の申込みを「特定申込み」といいます。)
 また,①及び②については,通信販売により商品等を販売し又はサービスを提供する企業が自ら定め又は表示する場合に限らず,例えば,②については,これらの企業が,ECカートシステムについては第三者のカート事業者に委託しているといった場合における,当該カート事業者のシステムによって顧客のPC等の画面に表示した手続も含みます。つまり,このような委託先の事業者のシステムによる場合であっても,顧客のPC画面等に表示される表示内容については,これを使って商品等を販売し又はサービスを提供する企業が,新法12条の6の規定による表示規制の名宛人となるので,これらの企業においては,委託先のシステムの表示も含めた見直しが必要です。
 以下では,昨今の通信販売取引の主流であるeコマースを念頭に,②のインターネットを用いた特定申込みの場合の表示規制に絞って説明します。

 ⑶ ②のインターネットを用いた特定申込みにおいて手続が表示される映像面とは

 「インターネット通販において,消費者がその画面内に設けられている申込みボタン等をクリックすることにより契約の申込みが完了することとなる画面」(以下「最終確認画面」といいます。)が,②の映像面に該当するとされています[vii]。ECカートシステムにおいて,注文確定・完了等といったボタンと併せて,その直上や直下に表示される,「注文内容の確認」といった表題の画面が,最終確認画面の典型例です。
 このように,新法12条の6の規定は,カートシステム上の最終確認画面によって消費者に通信販売の契約の申込みをさせる場合における当該画面上の表示を規律するものです。

3 新法12条の6第1項【(適切な)表示が義務付けられる事項】

 ⑴ 第1項の意義等

 この規定は,後記⑵に詳述する,表示が義務付けられている事項(以下「表示事項」といいます。)を掲げるもので,このうちの1つでも最終確認画面に表示しないと同項に違反するのはもちろんのこと,表示事項について真実と異なる表示(不実の表示)をした場合にも同項違反になるとされています。
 他方,最終確認画面において,表示事項が適切な方法で表示されているといえるためには,原則として,表示事項は,消費者が最終確認画面上で一覧できるよう,網羅的に表示することが望ましいとされます。もっとも,表示事項に係る全ての説明を最終確認画面上に表示すると,かえって消費者に分かりづらくなるといった事情がある場合には,最終確認画面に,ECサイト中の広告部分で当該表示事項の明確な表示があるページのリンクを貼る(このリンク自体も消費者が明確に認識できる必要があります。)ことにより,消費者がリンクによって遷移したページで当該表示事項を容易に認識できるようにしておく,最終確認画面上にクリックにより表示される別ウィンドウ等を設定してここで詳細を表示する等といった方法をとることも可能とされています申込み表示ガイドライン18及び19ページ・【画面例4-1】【画面例4-2】)。

 ⑵ 表示事項

 表示事項の具体的な表示方法については,申込み表示ガイドラインに,適切な表示による画面例(15ないし19ページ・【画面例1】ないし【画面例4-2】)を伴う詳細な説明があり,これを表示事項ごとに整理すると,概ね次のとおりです。
 いずれの表示事項についても,消費者が容易かつ明確に認識できる形式・態様で表示することが前提となります。

新法12条の6第1項の号数

表示事項 

表示事項の具体的な表示内容・方法等の概要

1号

通信販売の目的となる商品等又はサービスの分量

・目的の態様に応じた,数量(同一商品で内容量等の異なるものがある場合はそれらを明確に区別できる表示),回数,期間等。
・定期購入契約では,各回に引き渡す商品の数量等に加え,当該契約に基づいて引き渡される商品の総分量を把握できるようにするための引渡しの回数。
【例:5カ月の定期購入契約であるにもかかわらず,1か月分の分量のみを表示するのはNG。初回と2回目以降の商品の内容量が異なる場合等には,各回の分量も表示。】
・サブスクリプションで,役務の提供期間,期間内に利用可能な回数が定められている場合にはその内容。
・無期限の定期購入契約[viii]や無期限のサブスクリプションの場合は,その旨。目安である旨を明確にした上で,一定期間を区切った分量【例:1年単位の総分量】を明示すると望ましい。自動更新のある契約である場合は,その旨。

2号
(新法11条1号準用)

商品等の販売価格又はサービスの対価(販売価格に商品の送料が含まれない場合には,販売価格及び商品の送料)

・複数の商品を購入する場合,個々の商品の販売価格,支払総額(消費税を含む価格)。送料は実際に消費者が支払う金額を表示。
・定期購入契約では,各回の代金,消費者が支払うこととなる代金総額【例えば,初回と2回目以降の代金が異なるような場合には,初回の代金と対比して2回目以降の代金も表示】。
・サブスクリプションによくある,無償又は割引価格で利用できる期間を経て有償又は通常価格の契約内容に自動的に移行するような場合には,移行時期及び支払うこととなる金額。
・無期限の定期購入契約や無期限のサブスクリプションの場合には,目安である旨を明確にした上で,一定期間を区切った支払総額【例:1年単位の支払額など】を明示すると望ましい。

2号
(新法11条2号準用)

商品等の代金又はサービスの対価の支払の時期及び方法

・銀行振込,クレジット,代金引換等の支払方法の別。金融機関,コンビニエンスストア等で振込や支払手続を行う必要がある場合は,前払い又は後払いの別,支払期限の具体的な時期。
・定期購入契約では,各回の代金の支払時期。

2号
(新法11条3号準用)

商品等の引渡等の時期又はサービスの提供時期

・期間又は期限をもって表示【例:前払いの場合には「入金確認後○日以内」や「入金確認後○月○日まで」等】。
・商品の引渡し又はサービスの提供が複数回にわたる場合は,回数,期間(又は期限)等。
・定期購入契約では,各回の商品の引渡時期。

2号
(新法11条4号準用[ix]

商品等の売買契約又はサービス提供契約に係る申込みの期間に関する定めがあるときは,その旨及びその内容

・商品の販売等そのものに係る申込期間を設定する場合【例:購入期限のカウントダウンや期間限定販売など,一定期間を経過すると消費者が商品自体を購入できなくなるもの】が該当。申込みの期間に関する定めがある旨とその具体的な期間を表示【例:「お申込み期間は〇月〇日まで」等】。
・適切な表示の例として申込み表示ガイドライン18及び19ページの【画面例4-1】及び【画面例4-2】

2号
(新法11条5号準用[x]

商品等の売買契約又はサービス提供契約の申込みの撤回又は解除に関する事項

・契約の申込みの撤回又は解除に関する条件,方法,効果等。

・商品等の場合でいわゆる返品特約(新法15条の3第1項ただし書)があるときはその内容[xi]
・サービスの場合,1回のサービス提供を行う契約であれば申込みの撤回の可否やその方法等複数回又は一定期間のサービス提供を行う契約であれば契約途中の解約に係る方法等。
・定期購入契約で,解約の申出に期限がある場合には,その申出の期限。解約時に違約金その他の不利益が生じる契約内容である場合には,その旨及び内容。
・解約方法を特定の手段に限定する場合,その内容。
・解約方法として例えば電話による連絡を受け付けることとしている場合には,確実につながる電話番号。

(その2)では,新法12条の6第2項【人を誤認させるような表示の禁止】の規定と,同条に違反した場合の制裁について説明します。

(続く)


[i] 商品の販売業者が購入者に対して商品を定期的に継続して引き渡し,購入者がこれに対する代金の支払いをすることと契約形態をいいます。

[ii] 定められた料金を定期的に支払うことにより,契約期間内に商品やサービスを利用できることとなる契約形態をいいます。

[iii] (特定申込みを受ける際の表示)※下線は,引用者による※

第十二条の 販売業者又は役務提供事業者は,当該販売業者若しくは当該役務提供事業者若しくはそれらの委託を受けた者が定める様式の書面により顧客が行う通信販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込み又は当該販売業者若しくは当該役務提供事業者若しくはそれらの委託を受けた者が電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により顧客の使用に係る電子計算機の映像面に表示する手続に従って顧客が行う通信販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込み(以下「特定申込み」と総称する。)を受ける場合には,当該特定申込みに係る書面又は手続が表示される映像面に,次に掲げる事項を表示しなければならない。

一 当該売買契約に基づいて販売する商品若しくは特定権利又は当該役務提供契約に基づいて提供する役務の分量
二 当該売買契約又は当該役務提供契約に係る第十一条第一号から第五号までに掲げる事項

2 販売業者又は役務提供事業者は,特定申込みに係る書面又は手続が表示される映像面において,次に掲げる表示をしてはならない。

一 当該書面の送付又は当該手続に従った情報の送信が通信販売に係る売買契約又は役務提供契約の申込みとなることにつき,人を誤認させるような表示
二 前項各号に掲げる事項につき,人を誤認させるような表示

[iv]特定商取引に関する法律等の施行について」(令和4年2月9日付け消費者庁次長・経済産業省商務・サービス審議官通達)の別添7。同年6月1日の新法施行に伴い,この通達及び申込み表示ガイドラインによる運用がなされます。

[v] 消費者庁も,令和4年2月9日付けで,すべてのEC事業者向けのチラシを公表しています。

[vi] 現行法の下での施行規則16条1号及び2号の運用については,「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドラインが詳細な考え方を示しています。同ガイドラインは令和4年6月1日をもって廃止され,同日以降は,申込み表示ガイドラインの9ページ以降におかれた「.法第14条第1項第2号の考え方について」により運用されることになります。

[vii] チャットやSNS等を利用して申込みを行う場合も含みます。また,広告や注文内容等の入力から注文内容の確認までが,画面の遷移を経ることなくスクロールによって一連の画面として表示されるような場合には,最終的な注文内容の確認に該当する表示部分が「特定申込みに係る…手続が表示される映像面」に当たるとされています。

[viii] 消費者が解約を申し出るまで定期的に商品等の引渡しがなされる形態の定期購入契約をいいます。

[ix] 新法11条4号(新設)の規定は次のとおりであって,今回の改正により,広告において表示すべき事項が追加されたものですので,ご留意ください。

 四 商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約に係る申込みの期間に関する定めがあるときは,その旨及びその内容

[x] 新法11条5号の規定は次のとおりであって,今回の改正により,広告において表示すべき事項に,役務提供契約の申込みの撤回又は解除に関する事項が追加されたものですので(引用者において,追加部分に下線を付します。),ご留意ください。

五 商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約の申込みの撤回又は解除に関する事項(第十五条の三第一項ただし書に規定する特約がある場合にはその内容を,第二十六条第二項の規定の適用がある場合には同項の規定に関する事項を含む。)

[xi] この表示方法の詳細については,上記通達・別添5「通信販売における返品特約の表示についてのガイドライン」に定められています。

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