2022.02.24

令和3年改正特定商取引法施行~サブスクを含むBtoC・eコマースを行う全ての企業におかれては,令和4年6月1日までにカートシステムの最終確認画面の表示を見直しましょう!~ (その2)

のぞみ総合法律事務所
弁護士 山田 瞳

4 新法12条の6第2項【人を誤認させるような表示の禁止】

⑴ 1号【当該手続に従った情報の送信等が通信販売に係る売買契約又はサービス提供契約の申込みとなることについて人を誤認させるような表示】

 最終確認画面における情報の送信について,それが有償の契約の申込みとなることを消費者が明確に認識できるようにしていない表示を禁止するものです。
 例えば,「注文内容の確認」といった表題の画面上に「申込みを確定する」といったボタンが表示されており,それをクリックすれば申込みとなることが明らかな場合であれば,一般に消費者を誤認させることとはならないといえますが,例えば,「送信する」,「次へ」といったボタンが表示されており,画面上の他の部分でも「申込み」であることを明らかにする表示がない場合など,当該ボタンをクリックすれば何らかの情報の送信がなされ,次の画面に進むことは把握できたとしても,それが売買契約等の申込みとなるものと明確に認識できないような場合には,消費者を誤認させるおそれがあると考えられます(申込み表示ガイドライン20及び21ページ・【画面例5】【画面例6】)
 なお,現行法の下でも,「ご入力内容のご確認」といった表題の最終確認画面上に設置した定期購入契約の申込みを完了させるボタンに,「初回無料の〇〇コースに参加する」としか表示していなかった場合や,「購入完了ページへ」と表示していた場合は,現行法14条1項2号の規定を受けた同法施行規則16条1項1号の規定に該当する「顧客の意に反して通信販売に係る売買契約の申込みをさせようとする行為」として,行政処分の対象とされています(令和2年1月21日付け通信販売業者に対する行政処分)。

⑵ 2号【新法12条の6第1項各号に掲げる事項について人を誤認させるような表示】

 最終確認画面において,表示事項を表示しており,それが不実の表示ではないものの,その意味するところを誤認させるような表示を禁止するものです。
 同条第2項2号の「人を誤認させるような表示」に該当するかどうかは,その表示事項の表示それ自体並びにこれらが記載されている表示の位置,形式,大きさ及び色調等を総合的に考慮して判断されます。例えば,ある表示事項が正しく表示してあったとしても,その表示の位置が,最終確認画面の注文確定ボタンの下部に離れて置かれているために,消費者が他の表示事項と併せて一覧することができないような場合などには,該当するおそれがあるとされています(申込み表示ガイドライン22ページ・【画面例7】)。
 また,特定の文言等の表示のみからではなく,他の表示と組み合わせて見た表示の内容全体から消費者が受ける印象・認識により総合的に判断し,消費者が誤認するような表示方法であれば,「人を誤認させるような表示」に該当するおそれがあるとされています。例えば,定期購入契約において,最初に引き渡す商品等の分量やその販売価格を強調して表示し,その他の定期購入契約に関する条件を,それに比べて小さな文字で表示することや離れた位置に表示していることなどによって,引渡時期や分量等の表示が定期購入契約ではないと誤認させるような場合には該当のおそれがあるとされます。特に,「お試し」や「トライアル」などと殊更に強調する表示は,一般的な契約と異なる試行的な契約である又は容易に解約できるなどと消費者が認識する可能性が高いため,これに反して,実際には定期購入契約となっていたり,解約に条件があり容易に解約できなかったりする場合には該当のおそれが高いとされています(申込み表示ガイドライン21,23及び24ページ・【画面例6】【画面例8】【画面例9】)。
 さらに,「いつでも解約可能」などと強調する表示は,消費者が,文字どおりいつでも任意に指定する時期に無条件で解約できると認識するため,実際には解約条件等が付いているにもかかわらず,「いつでも解約可能」などの表示をした場合には,該当のおそれがあるとされています(申込み表示ガイドライン25ページ・【画面例10】)。
 なお,現行法の下でも,定期購入契約において消費者が支払うことになる支払総額や対象商品を少なくとも〇回購入することになるといった販売条件について,たとえ最終確認画面上に一応の表示がされていたとしても,その位置が,最終確認画面上に設置した定期購入契約の申込みを完了させるボタンの下の,「お届けサイクル」等と題された表示よりも更に下の当該最終確認画面上の最下部であり,また,その態様も,当該ボタンや当該表示に比して極めて小さくかつ目立たない色調であったという場合には,消費者が容易に認識できないものとして,現行法14条1項2号の規定を受けた同法施行規則16条1項2号の規定に該当する「顧客の意に反して売買契約の申込みをさせようとする行為」として,行政処分の対象とされています(令和3年1月13日付け通信販売業者に対する行政処分)。

5 新法12条の6の規定に違反した場合の主な効果

⑴ 行政処分

 指示処分,業務停止処分等(新法14条,15条,15条の2)といった行政処分の対象になり得ます。
 なお,現行法の下でも,定期購入契約に係る通信販売の最終確認画面における消費者の利益を害する表示については,「顧客の意に反して売買契約の申込みをさせようとする行為」(現行法14条1項2号)として,上記の行政処分の対象とされてきており[i],新法施行後も引き続き当局による厳しい運用が予想されます。

⑵ 適格消費者団体の差止め

 違反行為は,適格消費者団体による差止めの対象になります(新法58条の19第2号及び第3号(新設))

⑶ 契約の取消し

 違反により,誤認して契約の申込みをした消費者は,その申込みの意思表示を取り消すことができます(新法15条の4(新設))

⑷ 刑事処分(直罰規定

 新法12条の6第1項の規定に違反して(表示事項について)表示をせず又は不実の表示をしたときには,違反行為者は,3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処され,又は併科されます(新法70条2号(新設))。
 新法12条の6第2項の規定に違反して,同項各号に掲げる(人を誤認させるような)表示をしたときには,当該違反行為者は,100万円以下の罰金に処されます(新法72条1項4号(新設))。

6 最後に

 以上でみてきたように,新法12条の6の規定の新設により,ECカートシステムの最終確認画面における表示の内容や態様については,相当に詳細かつ多岐にわたる規律が設けられ,これに違反すると重い制裁を受けるおそれがあります。このような規律に違反しないためには,定期購入契約やサブスクリプションによる通信販売取引を行う場合はもちろんのこと,これにかかわらず,BtoCのeコマースを行う全ての企業におかれては,今から,カートシステム上の最終確認画面の改訂作業に着手いただき,本年6月1日の新法の施行に十分に備えていただく必要があります。
 この作業に際しては,申込み表示ガイドライン等における説明過去の行政処分事例の内容もご参照いただくほか,広告部分の表示を含むECサイトの表示全体も踏まえながら,消費者目線に立って表示内容を見直すことが,何よりも重要となると考えます。
 本稿に関しまして,ご不明な点やご質問等がございましたら,お気軽にお問い合わせフォームまでご連絡ください。

(参考)
 「特定商取引に関する法律等の施行について」(令和4年2月9日付け消費者庁次長・経済産業省商務・サービス審議官通達)

 同別紙7:「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」(申込み表示ガイドライン)

通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン(案)に関する意見募集の結果等について」(令和4年2月9日付け消費者庁取引対策課)

消費者被害の防⽌及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の⼀部を改正する法律の概要」(消費者庁)


[i] 直近の行政処分として,次のようなものが挙げられます。

 令和3年11月24日付け通信販売業者に対する行政処分

 令和3年7月15日付け通信販売業者に対する行政処分

 令和3年1月13日付け通信販売業者に対する行政処分

 令和2年12月17日付け通信販売業者に対する行政処分

 令和2年8月6日付け通信販売業者に対する行政処分

 令和2年1月21日付け通信販売業者に対する行政処分

 令和元年12月25日付け通信販売業者に対する行政処分

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