2023.07.05

シリーズ“法学と経営学の交錯” 
企業価値向上に貢献するガバナンスの在り方
~「対話型ガバナンス」のすすめ~
(その10)

のぞみ総合法律事務所
弁護士 吉 田 桂 公
MBA(経営修士)
CIA(公認内部監査人)
CFE(公認不正検査士)

 

※ 本シリーズ最後の「その10」では、社外取締役による会社の実情等に関する情報収集について解説します。

4 「対話型ガバナンス」とその具体的な取組み

(2)「対話型ガバナンス」の具体的取組み

オ 会社の実情等に関する情報収集

(ア)会社の実情等に関する情報収集の方法

 社外取締役は、社内情報には精通していないことが多いですが、社外取締役が会社の実情等に関する情報収集を行うことは、会社経営における本質的な事項(「参照)等に関する「対話」の質を上げるために重要です(ただし、偏った情報収集となり、その結果、固定観念を持つに至って、「対話」における柔軟性が欠けることがないように、注意することが必要です。)。また、役職員との「対話」を通じた情報収集は、役職員との関係構築の点でも有益であるといえます。
 社外取締役は、以下のような方法で社内情報を収集することが考えられます。

① 現場観察、現場との「対話」
② 執行役員・部長クラス等との「対話」
③ 内部監査部門との「対話」
④ サポートスタッフ等による支援
⑤ 経営会議等の会議体の傍聴
⑥ 社内情報へのアクセス権限の付与

(イ)各情報収集方法の重要性・有益性

a 上記①について

 経済産業省編著『社外取締役の実像―15人の思想と実践』(きんざい、20217月)p.270の中で、小林いずみ氏(三井物産株式会社社外取締役等)は、「どの現場でもよいので、その現場のスタッフとオープンに議論する機会は有益だと思います」と述べています。
 また、社外取締役ガイドライン・「参考資料1 社外取締役の声」(20207月)(以下「経産省「社外取締役の声」」といいます。)[1]では、「積極的に工場見学に行き、担当役員や執行役、幹部との意見交換を行い、状況を知るようにしている」(同p.53)、「拠点視察や社内イベントの後に懇談会の場を設けてもらい、執行陣とのコミュニケーションを図っている」(同p.5354)との事例が挙げられています。
 さらに、ラム・チャラン著『取締役が会社の価値を高める!―競争優位を生み出すコーポレート・ガバナンス実践法―』(税務経理協会、20061月)は、「進歩を遂げた取締役会はまた、会議室の外でも、会社のことを知るために時間をかける。社員やアナリストの話を聞いたり、店や工場にも直接足を運ぶ。的を射た鋭い質問や意見が言えるように、会社の実情を正確に把握する方法を見つけるのだ」(同p.44)、「取締役会は、工場や小売販売店、出張所などを取締役が定期的に訪れ、会社の業務が何なのか、そこで働いている人たちがどんな人材なのか、顧客は誰なのか、顧客は会社のことをどう思っているのかを肌で感じられるような仕組みを考えるべきだろう」、「取締役は、会社が実際どう動いているか、顧客がどんな経験をしているかを、机上レベルではなく実地に学ばなければならない」(同p.107)、と指摘しています。
 このように、現場訪問や現場職員との「対話」は、会社情報の収集や、現場職員とのコミュニケーションの強化にとって、重要です。

b 上記②について

 前掲『社外取締役の実像―15人の思想と実践p.96の中で、伊藤邦雄氏(東レ株式会社社外取締役等)は、「私自身が心がけているのは、取締役会メンバーの一層、二層下くらいの人たちとコミュニケーションネットワークをつくっておくことです。執行役員とか部長とかです。そうすると、CEOが取締役会で語っていることとずいぶん違うということがある」と述べています。
 さらに、金融庁・スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第27回)・資料42022516日)(以下「フォローアップ会議・資料4」といいます。)[2]では、「社外取締役が社内の実態を把握できるよう、社外取締役と役員・上級幹部・若手が懇談をする場を設けている」(同p.16)との事例が挙げられています。
 このように、執行役員・部長クラス等との「対話」による情報収集は、取締役会では出てきにくい情報を得るといった点で、有益です。

c 上記③について

 経産省「社外取締役の声」では、「コーポレートガバナンス・コードでは、リスクを取る体制とそれをコントロールできる体制を構築することが取締役会の大きな使命の一つだとされており、その中心的な役割が社外取締役だ。その観点からは、色々な情報が集まってくる内部監査部門との連携、情報交換が常に必要だ」(同p.54)との意見が出ています。
 内部監査部門には社内のリスク情報が集約されることから、社外取締役が、特に、牽制的監督や牽制的助言を行うにあたり、内部監査部門との「対話」を行うことは重要です。

d 上記④について

 前掲『社外取締役の実像―15人の思想と実践p.228229の中で、阿部敦氏(富士通株式会社社外取締役・取締役会議長)は、「情報収集の面では、富士通では、一人ひとりの社外取締役に若くて優秀なサポートメンバーをつけてもらっています」と述べています。
 サポートスタッフや取締役会事務局からの情報収集も、社外取締役が求める情報を得やすくなるという点で、有益です。

e 上記⑤について

 フォローアップ会議・資料4では、「社外役員には、経営会議の議案書や議事録を以前から配付していたが、1年前から経営会議を直接傍聴できる仕組みに変更した。また、業務執行役員が当面の課題や今後のビジネス戦略について議論する合宿に社外の役員も出席できるようにした上、その模様を収録して、約2週間閲覧できるようにした。それによって、取締役会での説明の時間を省くことができるようになり、議論の時間を長く持てるようになったため、議論の中身も向上した」(同p.11)との事例が挙げられています。経営会議等では、経営上の重要事項を含め、会社の種々の案件について、具体的かつ詳細な情報が得られることから、これらの会議体を傍聴することは有益です。

f 上記⑥について

 (情報漏えい防止等の取組みに留意することは必要ですが)社外取締役に社内情報へのアクセス権限が付与されていると、気になった情報を随時得ることができ、「対話」の質を上げる上で有益です。

5 最後に

 10回にわたって解説してきましたが、取締役会における「審議の質」・「意思決定の質」を高め、企業価値向上につなげるには、「審議」・「意思決定」の土台として、「多様性」と「心理的安全性」が確保された「対話」の充実が必要であり、取締役会の在り方、また、コーポレートガバナンスの在り方として、「対話型ガバナンス」(「『多様性』と『心理的安全性』に富んだ取締役会という『場』における『対話』による相互作用」)を機能させることが重要であると考えます。
 本シリーズが、皆様の企業価値向上の一助になれば幸いです。

(おわり)


[1] https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200731004/20200731004-2.pdf

[2] https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20220516/04.pdf

 

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