2023.09.26

AI著作権劇場 ー 米国著作権局2023年9月レターより

のぞみ総合法律事務所
弁護士 諏訪 公一

1.はじめに

 Midjourneyなどの画像生成AIが話題になり、AIと著作権についての様々な議論が取り上げられるようになってから、早一年以上が経とうとしております。以前、米国におけるAI著作物の登録についてニュースレターで取り上げましたが(https://www.nozomisogo.gr.jp/newsletter/8258)、今回は別の作品についての米国著作権局の判断をご紹介したいと思います。

2.事案の紹介

 今回問題となった作品は、Jason M. Allen氏が制作した“Théâtre D’opéra Spatial”です(英語名では”Space Opera Theater”といい、日本語では、「宇宙オペラ劇場」などと訳されています。本作品の詳細は、こちらのページ(https://artincarnate.com/special-release-theatre-dopera-spatial/)からご確認いただけます。同リンクの動画からは、細かい部分も確認できます)。

 本作品は、コロラド州に住むAllen氏がMidjourneyを利用して作成したもので、2022年のColorado State Fair Contestの“digital arts/digitally-manipulated photography”部門で第1位を獲得しました。AI生成の絵画がコンテストで優勝したとして、世界中で大きな議論を巻き起こした作品です。

3.AI生成物の著作物性の基準―米国編

 事案のご紹介の前に、現在のAI生成物に関するアメリカにおける著作権の考え方について簡単にご説明いたします。米国著作権局は、2023316日に、AI生成物に関する著作物登録ガイダンス(https://copyright.gov/ai/ai_policy_guidance.pdf)を発表しています。ここでは、著作物として保護されるためには、「人間」による創作物であることが求められ、コンピュータは単に補助的な役割を果たすのか、Authorship(著作者性)の伝統的な要素が実際にはコンピュータによって生み出されているのかが問題になるとしています。つまり、AI創作物については、たとえば、AIが人間からプロンプトのみを受け取り、AIが複雑な作品を生み出した場合は、人間が創作したものではないとされています。一方、人間がAI生成物にアレンジ等を加えることにより著作物として保護される場合もありますが、その場合でも、著作権法が保護するのは、人間が創作した部分のみであり、AI生成部分は著作物として保護されないとされています。たとえば、絵画におけるAdobe Photoshopでの修正が、著作物として保護されるほどのAuthorshipの要素があるかどうかが問題となります。
 そして、人間が、AI生成物のコンテンツにアレンジ等を加えたものについて著作権登録を行う際には、“Author Created”の欄に、人間が生成した部分と、AIが生成した部分を明記する必要があります。さらに、些細なもの以上(more than de minimis)AI生成物が利用されている場合には、その部分を登録から明示的に除外しなければならないため、”Limitation of Claim”の項目にAI生成物の内容を記載する必要があります。(前記ガイダンス3−5頁)。

 なお、前回のコラムでご紹介したSteven Thaler博士の「A Recent Entrance to Paradise」は、すべてAIで生成された絵画でしたが、米国著作権局にて著作権登録を拒絶され、Thaler博士は連邦地裁に訴訟を提起しておりました。裁判所は、2023818日、著作物性を否定した米国著作権局の判断を支持しています(判決文はこちら( https://ecf.dcd.uscourts.gov/cgi-bin/show_public_doc?2022cv1564-24)からからご覧いただけます)。

4.本件の経緯と判断

 本件は、Allen氏が本作品の著作権登録申請を行なった際、本作品全体が著作物として登録されることを希望していたため、申請時に本作品がAIを利用して制作されたものであることを記載しておりませんでした。一方で、本作品は、上記の通り、AI生成物がコンテストで優勝をしたことで話題になっていた作品でもあったため、米国著作権局においてAI生成物であることが認識できるものでした。そこで、米国著作権局は、Allen氏に、上記ガイダンスに従いMidjourneyを利用したものである旨の追記を求めました。しかし、Allen氏は、上記のとおり本作品全体についての登録を求め、AI生成物であることの追記を拒否しました。そこで、Allen氏が米国著作権局に2度目の再検討申請いたしました。今回ご紹介するレターは、その米国著作権局の回答となります。

 今回の米国著作権局の判断においては、結論として、本作品は「些細なもの以上 (more than de minimis)」のAI生成物が含まれており、その部分については明記する必要があるが、申請においてその記載がなされていないため、登録は拒絶されるべきものと判断しました。
 Allen氏による本作品全体の登録を求めた理由はいくつかありますが、最大の主張は、最初のイメージに辿り着くために少なくとも624回、何度もの修正とテキストプロンプトをMidjourneyに入力した上で、さらに、最初のイメージからAdobe Photoshopで修正し、Gigapixel AIを使用して画像の解像度やサイズを増加させることでイメージを高解像度のものとしたことを説明しています。そして、Allen氏は、Midjourneyで本作品の最初のイメージを生成するために、一連のプロンプトの入力、シーンの調整、焦点を当てる部分の選択、画像のトーンの指示など、「クリエイティブな入力」を行なったと主張しました。

出典:202395日付米国著作権局レター(https://www.copyright.gov/rulings-filings/review-board/docs/Theatre-Dopera-Spatial.pdf)。左がMidjourneyにより出力された作品で、右が本作品です。

 米国著作権局は、判断をするにあたり、Midjourneyの文書を参考にしているようです。そこには、プロンプトはMidjourneyが生成するものに「影響を与え」、Midjourneyによって「解釈され」、そして「その訓練データと比較される」と説明されていたようです。そこで、米国著作権局は、Midjourneyは人間のように文法や文の構造等を理解せず、よって、Midjourneyはプロンプトを特定の表現結果を創造するための具体的な指示として解釈していないとしました。つまり、Midjourneyは、テキストプロンプトを直接の指示として扱っていないことになります。そうであるならば、Allen氏が少なくとも624回プロンプトを入力したとしても、AI生成物のプロセスは、Midjourneyのシステムが、そのプロンプトをどのように処理するかに依存するものとなります。つまり、Midjourneyは、「AIが人間からプロンプトのみを受け取り、AIが複雑な作品を生み出す場合」であり、「伝統的なAuthorship(著作者性)の要素」はMidjourneyによって決定され実行されている、としました。なお、プロンプトは、言語著作物(literary works)として保護されるものもありうるものの、そのようなプロンプトを提供することが、伝統的な著作者性の要素を「実際に形成」するわけではないと述べています。いずれにしましても、本作品のうち、Midjourneyが生成した画像部分については、著作物性を認めませんでした。

. まとめ

 今回の米国著作権局の決定にあたっては、Allen氏が行なったAdobe Photoshopによる調整が著作権を有するかどうかは判断していません。ただ、米国著作権局とAllen氏の以前のやりとりでは、Adobe Photoshopによる修正自体については、著作物性を認めている旨のやりとりはあったようです。そのため、今回の登録申請却下によっても、Midjourneyによる作品は一律で著作権登録申請が認められないというものではなく、AI生成画像に、人間の創作性が付与されているのであれば、適切にその部分の申請を行えば、その創作部分については著作権登録が可能と考えられます。実際にも、Midjourneyによって生成された画像と人間が執筆した文章を組み合わせたグラフィックノベル“Zarya Of the Dawn(https://aicomicbooks.com/book/zarya-of-the-dawn-by-kristina-kashtanova-download-now/)については、AI生成物以外の著作物性を認め、現在登録がなされています。

 日本においても、文化庁は、AI生成物が著作物たりうるかについて、AIが自律的に生成したものは著作物に該当しないと考えられるが、人の「創作的意図」と「創作的寄与」があり、人が表現の道具としてAIを使用したと認められる場合には、著作物に該当すると考えられる、としています(20236月文化庁著作権課「AIと著作権」55頁以下。https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf)。
 日米の著作権法は条文構造等の違いはあるものの、AI生成物に著作権が与えられるかについて、特にMidjourneyによって生成された画像の著作物性について、今回の米国著作権局の判断は、日本においても参考になるものと考えられます。なお、現在、米国著作権局は、AIと著作権に関する調査を行なっており(https://www.copyright.gov/newsnet/2023/1017.html)、様々な論点についてパブリックコメントを受け付けています。そして、受け取ったフィードバックを議会への助言や規制業務への情報提供等に活用するそうです。どのようなコメントが集まり、その後米国著作権局がどのようにAIに関する法を検討していくかなども、引き続き注目されます。

以上

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