2018.09.26

「税務コンプライアンス」がなぜ企業に求められるようになったのか~重加算税のリスクを回避するためのポイント

のぞみ総合法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士
結城 大輔

山下貴税理士事務所
税理士 山下 貴

1 はじめに

 「税務コンプライアンス」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。
 「税務」という言葉を聞いて法務・コンプライアンス部門の方々や弁護士が示す典型的な反応は、「税務が重要なのはよくわかるんだけど、苦手だな。」、「税務については、経理部・顧問税理士に任せています。」といったものではないでしょうか。

 筆者(弁護士結城)も、以前はこれと同じような感覚を持っていました。しかし、実は税務の世界では、ここ数年、「税務に関するコーポレートガバナンス」や「税務コンプライアンス」と呼ばれる考え方によって、大きな変化が生じています。この考え方は、税理士や経理部門のみならず、弁護士、法務・コンプライアンス部門の皆様、ひいては役員の皆様にこそ理解していただく必要がある内容となっているのです。

2 国税庁の変化によって「税務コンプライアンス」と「税務に関するコーポレートガバナンス」が求められる

 私たちがこのテーマに注目するようになったきっかけは、2013年に報道されたとある新聞記事でした1。その記事では、国税庁が、大企業の税務コーポレートガバナンスの体制をA〜Dの4段階で評価し、優良とされたA判定企業のうち過去の悪質な所得隠しの有無等を考慮して選出された十数社を、税務リスクの高い取引の自主開示等を条件に、税務調査の省略を認める方針であることが紹介されていました。

 大企業における税務調査は、平均して数年に1度の頻度で、数か月から半年程度の期間にわたって行われています。このような税務調査の間隔が延長されるのであれば、事務負担の軽減など、企業にとって大きなメリットのある話です。一方で、D判定をもらうようなこととなれば、深度ある税務調査を受けることとなり、その対応のために多大な人的・物的コストの負担を強いられることになります。

 そして、2016年6月14日、国税庁は、このような取組の詳細について、「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組の事務実施要領の制定について(事務運営指針)」を公表し、大企業の税務コンプライアンス向上のために、大企業が自ら税務に関するコーポレートガバナンスを充実させていくように促進していくことを明らかにしました。

 国税庁の取組の概要は、次の①〜④にまとめることができます2

【図表1:国税庁の取組の概要】

国税庁の取組の概要

 すなわち、国税庁は、税務調査の機会を利用し、①対象とする大企業について、税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組状況を確認し、②それについての評価・判定を行います。対象とされる大企業とは、「実地調査を実施する国税局特別国税調査官所掌法人」(いわゆる「特官所掌法人」)とされていますが、これは、資本金がおおむね40億円以上の法人のうち、課税当局が調査に注力する必要があるとして指定した法人で、全国で約500法人にのぼります。

 また、税務調査においては、③原則として、トップマネジメント3との面談を行って、前回面談からの改善状況や、低評価項目について先進事例の紹介や意見交換を行うとしています。そして、④税務に関するコーポレートガバナンスの判定結果の活用方法として、取組状況が良好な法人については、一般に国税当局と見解の相違が生じやすい取引等を自主的に開示すること等を条件に次回税務調査までの間隔を延長する一方、評価の低い法人については、頻繁かつ深度のある実地調査が行われることとなる、という形としています4

 要は、自主的に充実した取組を行う企業に対しては、調査間隔延長という大きなメリットを与え、その一方で、評価の悪い企業に対してはその分リソースを振り向けて深度ある厳しい調査を行っていくというデメリットを課す、言わば「アメとムチ」の政策なのです。

 これをご覧になっている大企業の法務・コンプライアンス部門や社内弁護士の皆様には、ぜひ、国税庁が上記事務運営指針において明らかにしている、実際に大企業の取組を確認する評価ポイント(「税務に関するコーポレートガバナンスの確認項目の評価ポイント」)を確認してみてください。

【図表2:国税庁の確認項目と評価ポイント(一部抜粋)】

確認項目 評価ポイント
1 トップマネジメントの関与・指導
税務コンプライアンスの維持・向上に関する事項の社訓、コンプライアンス指針等への掲載 税務コンプライアンスに特化した指針等がある又はコンプライアンスに関する社訓や指針等に税務コンプライアンスに関する項目を明示的に掲載しているか。
税務コンプライアンスの維持・向上に関する方針のトップマネジメントによる発信(例:社内 LANに掲載、研修で伝達など) 1①の社訓や指針等が、社内 LANへの掲載や研修等を通じ全社員に対して発信され(役員・部長職等からの間接伝達を含む)、社員へ浸透しているか。
税務調査の経過や結果のトップマネジメントへの報告 税務調査結果だけでなく、適時トップマネジメントに税務調査状況を報告しているか。
税務に関する社内監査結果のトップマネジメントへの報告 適時トップマネジメントに社内監査の結果を報告しているか。
社内監査や税務調査等で税務上の問題事項が把握された場合における、その再発防止策に対するトップマネジメントの指示・指導 担当部署等が提示した再発防止策に対してトップマネジメントが、指示・指導を的確に行っているか。
トップマネジメントへの再発防止策の運用状況の報告 再発防止策の運用状況についてトップマネジメントに適時報告しているか。
トップマネジメントから社内に対する税務 調査への適切な対応についての指示 税務調査への協力についてトップマネジメントか ら指示しているか。
2 経理・監査部門の体制・機能の整備・運用
(略)
3 内部牽制の働く税務・会計処理手続の整備・運用
(略)
4 税務に関する情報及び再発防止策の社内への周知
(略)
5 不適切な行為の抑制策の整備・運用
(略)

 

 【図表2】では、国税庁が企業の経営トップによる取組みについての評価ポイントを抜粋していますが、国税庁がどのようなポイントを評価するのか、極めて具体的に開示していることがわかると思います。

 また1つ注目してほしいのは、このように企業の自主的な取組や当局への協力を促し、「よくできた子」にはアメを与える、という制度が増えている、という点です。まず、カルテル・入札談合という独占禁止法違反行為について、公正取引委員会に自主申告をすると、「早い者勝ち」で課徴金が減免されるという課徴金減免制度(いわゆるリーニエンシー制度)をあげることができます。米国にならって2006年に導入される前には「日本では、密告文化は定着しないのでは?」などと言われていましたが、実際には、非常に活発に利用されています。

 また、2018年6月には、改正刑事訴訟法の施行により、日本でもいわゆる司法取引(証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度)が導入されましたが、ここでも、当局に協力すれば「アメ」がもらえるわけです。

 このような制度が増えている1つの背景事情として、企業活動の複雑化・ボーダレス化に伴い、従来のように、当局が自らのリソースを投入した捜索や実地調査で違法行為等をすべて明らかにすることがますます困難になっている点を指摘できると考えています。誰よりも事情をよく知っている当事者からの情報提供を活用する、という大きな流れが存在しています。     

3 「思わぬ重加算税」の恐怖、従業員による横領・着服事案に注意

3-1 重加算税とは

 国税当局の変化を把握した以上、企業としては、国税庁から税務に関するコーポレートガバナンスについて高評価を獲得して、税務調査の間隔延長を目指したいところですし、少なくとも、低評価を下され国税庁のリソースを重点的に振り向けられ、厳しい調査を受けることは避けたいと考えるのが当然の流れです。

 ここで十分注意を払う必要があるのが、思わぬ重加算税」の落とし穴です。
 重加算税については、国税通則法68条1項が次のとおり定めています(下線は筆者)。

国税通則法第68条第1項
 第65条第1項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(同条第5項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

 

 つまり、税務調査で企業の過少申告が発覚した場合に、それが何らかの隠蔽・仮装行為に基づくものと認定されると、重加算税が課されるということになります。前述した国税庁によるA〜Dの4段階判定評価において、このような隠蔽・仮装行為の認定という重加算税賦課の事実がマイナスの影響を与え、評価を下げることは言うまでもありません。

 しかし、ここで筆者が重加算税に十分な注意を払う必要があると強調しているのは、実は、重加算税は企業にとって「思わぬ」場面で賦課されるリスクが少なからずあるため、なのです。

3-2 キックバック・着服と重加算税

 次の事例を見てください。

【事例1】
 A社は、税務調査の過程で、取引先からの仕入業務を担当していた従業員Bが、取引先の役員と通謀し、約5年間にわたり、架空の請求書を作成させ、キックバックを得る手法で、100回以上にわたり合計約6000万円を着服していたことを指摘された。

 

 残念ながら、組織の規模が大きくなると、金額の多寡はあれ、こういった従業員による横領・着服の不祥事を完全に根絶するのは困難です。これを読んでいる皆様の企業でも、思い当たる事例があるのではないでしょうか。特に、不正行為者が管理職など上位者である場合には、扱う金額が増えたり、不正の期間も長くなったりして、横領・着服額も大きくなる傾向があると思われます。

 このような横領・着服事案では、企業としては、当然、横領・着服を行った従業員に対し、不正な利得の回収の努力や、解雇等の懲戒処分、刑事告訴・告発等の対応をしていくことになるでしょう。いわば企業は、“被害者的な立場”で違法行為者である従業員に対応するわけです。

 ところが、上記事例のように、税務調査でなぜこれが指摘されるかと言うと、当局からすると、A社は、従業員Bの不正行為によって、架空経費を計上し、これによりA社の納税額が減っているのではないか、という事態になっているからなのです。従業員の横領・着服行為で言わば被害者的な立場にあると思っていた企業が、実際にこのような事例で重加算税を課されることがあるのです。

 このからくりは、納税者すなわち企業自身の行為ではなく、従業員等による隠蔽・仮装行為であっても「納税者本人の行為と同視できるとき」には重加算税が賦課されると考えられているからです。この判断基準は、納税申告手続を委任された税理士が隠蔽・仮装行為をした場合に関し、納税者以外の者が隠蔽・仮装行為を行った場合でも重加算税が納税者に課され得る旨を明らかにした最高裁平成18年4月20日判決・判タ1217号107頁が示したものです。

 では、どのような場合に「納税者本人の行為と同視できる」と考えられるのでしょうか。上記最高裁判決は、納税者が税理士の隠蔽・仮装行為を容易に認識でき、その防止・是正等の措置を講じ得たにもかかわらずこれをしていなかったときは、当該隠蔽・仮装行為を納税者本人の行為と同視できると判示しています。

 この考え方を横領・着服事案に当てはめると、企業が、従業員による横領・着服に伴う架空経費計上や取引先との仮装結託行為を容易に認識でき、その防止・是正措置を講じ得たにもかかわらずこれをしなかったと認定されると、企業自身による隠蔽・仮装行為と同視される可能性がある、ということになります5

 これは正に、企業として、平時から、横領・着服を防止し、架空経費計上等の不正行為を発見するための予防・発見コンプライアンスの取組を尽くすことこそ、「納税者本人の行為と同視できる」と判断され、思わぬ重加算税を賦課されてしまうリスクを低減するための必須の対策であると示しているのです。

 筆者が、法務・コンプライアンス部門の皆様に、このテーマを把握してほしいと考えている理由がここにあります。税務調査を担当する経理部門だけで対策をとれる話ではないのではないでしょうか。

3-3 「期ずれ」と重加算税

 今度は、次の事例を見てください。最近重加算税を課される例が増えていると言われている、いわゆる「期ずれ」の事案です。

【事例2】
 ソフトウェア開発会社のB社は、今期、厳しい競争の中、売上目標を達成し、営業部門では達成感と安堵感を感じていた。
 そんな中、来期での売上計上を予定していた仕掛かり中の案件が、思いのほかスムーズに進捗し、今期中に完成・引渡しまで完了したことがわかった。
 営業部門としては、今期はすでに目標を達成した以上、この仕掛かり案件については、当初の予定どおり売上は来期に立てたいと考え、納付先に連絡し、引渡完了証書の発行を、来期に遅らせてもらうこととした。

 

 まず、法人税法における収益の計上時期については、権利確定主義、すなわち、収入すべき権利が確定した時の属する事業年度の益金の額に算入すべきというのが判例の基本的立場と考えられています(最高裁平成4年10月29日判決・判タ842号110頁)。

 この点、たとえば、本来であれば今期に確定した売上や経費があり、それを今期に計上すべきであるのに、それを来期に遅らせて計上するという処理は、いわゆる「期ずれ」と呼ばれ、税務・経理上、しばしば登場する典型的ケースの1つです。このような期ずれ処理が、今期の税負担を不当に軽減する目的で行われた場合に、税務上厳しいペナルティが課されるのは、当然のことでしょう。

 しかしながら、今回筆者が注目したいのは、租税法における収益・費用の計上ルールなど全く念頭にないところで行われる期ずれ処理の場合です。その典型例の一つが、事例2のように、今期は売上ノルマを達成したため、今期の売上の一部を来期に温存したいという発想から、営業部門の担当者が、税金のことなど全く考えずに行う期ずれ処理なのです。

 問題は、このように税務処理を意識していないケースであっても、重加算税は賦課され得るという点です。まず確認しておくべきは、重加算税の賦課要件としては、原則として、納税者において過少申告を行うことの認識まで必要とするものではないと解されている点です(最高裁昭和62年5月8日判決・集民151号35頁)。
 そして、期ずれに関しては、法人に対する重加算税賦課に関する実務的取扱いの基準として国税庁が定めている事務運営指針「法人税の重加算税の取扱いについて」(最終改正2016年12月12日)が、以前から、以下のとおり定めています。

【図表3:法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)】

※下線は筆者による。

第1 賦課基準
(略)

(帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない場合)
3 次に掲げる場合で、当該行為が相手方との通謀又は証ひょう書類等の破棄、隠匿若しくは改ざんによるもの等でないときは、帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない。
(1)売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合において、その売上げ等の収入が翌事業年度(その事業年度が連結事業年度に該当する場合には、翌連結事業年度。(2)において同じ。)の収益に計上されていることが確認されたとき。
(2)経費(原価に算入される費用を含む。)の繰上計上をしている場合において、その経費がその翌事業年度に支出されたことが確認されたとき。
(3)棚卸資産の評価換えにより過少評価をしている場合。
(4)確定した決算の基礎となった帳簿に、交際費等又は寄附金のように損金算入について制限のある費用を単に他の費用科目に計上している場合。

 つまり、3(1)や(2)が定めるように、翌事業年度に収益や経費が計上されていれば、2期通算の税額で見れば何ら不正はないため、帳簿書類の隠匿、虚偽記載等には該当しないものとして、国税通則法68条1項の隠蔽・仮装行為に該当せず、重加算税は成立しないと考えてよいことになります。

 しかし、ここで見落としてはならない(にもかかわらず、しばしば見落とされがちであるため、留意しなければならない)のは、前記事務取扱指針第1の3項柱書に記載されている「当該行為が相手方との通謀又は証ひょう書類等の破棄、隠匿若しくは改ざんによるもの等でないときは」という部分です。つまり、たとえ翌事業年度に適切に売上や経費が計上されていたとしても、相手方との間で通謀が存在したり、証ひょう書類等の破棄や隠匿、改ざん等がなされたりしている事案では、重加算税が賦課される可能性がある、という点なのです。

 国税当局における前述の取扱いルール自体は従前から変わっていないにもかかわらず、近年、税務調査において、期ずれに重加算税が課されるケースが増えていると言われる理由はどこにあるのでしょうか。筆者は、当局が、通謀等の「動かぬ証拠」を掴む事例が増えてきたからと考えています。それは、「電子メール」です。

 「相手方との通謀」云々と言われると、その語感からは相当悪質な行為のように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際は、取引先に対し、「今回の請求ですが、来期の計上としたいので、来月1月に入ってから請求書をお送り頂けますか」と要望する電子メールのやり取りを税務調査で確保される、といった事案が少なくないものと思われます。

 もちろん、このようなやり取りがただちに通謀と認定されるというわけではなく、たとえば、そもそも当該仕入れ等の取引が確定的に成立していないため、請求時期を今期とするか来期とするかについて、相手方と協議をしているやりとりなのであれば、問題はないでしょう。しかし、売上や経費が確定的に成立していたにもかかわらず、計上時期をずらすことについて当該取引の相手方とメール等でやり取りしていたとすれば、通謀と認定されるおそれは十分あります。

 思わぬ重加算税については、従業員による着服・横領や期ずれ以外にも、飲食費の人数水増し等の不正においても問題になるケースが後を絶ちません。これらについては、改めて別稿でご紹介する予定です。

4 どこから取り組むか、経理・税務の取組だけでは足りない!

 まとめに代えて、企業としてこのテーマにどこから取り組めばよいかについて、筆者の考えを述べます。

 まず国税庁が、何よりもトップマネジメントのコミットメントを繰り返し強調している点を十分意識する必要があります。前述の「事務実施要領」では冒頭の「Ⅰ 基本的な考え方」から、「トップマネジメントの積極的な関与・指導」との言及が登場します。また、先ほどご紹介した「評価ポイント」(図表2)でも、国税当局がいかにトップマネジメントの本気の関与を重要視しているかが十分窺われます。

 国税庁は、なぜここまで手の内を明かしたのでしょうか。どのような確認項目を、どのような観点で確認して、判定・評価を行うかについて、ここまで具体的に明らかにした理由はどこにあるのでしょうか。筆者は、それを、国税当局による、企業の自主的な税務コンプライアンスの取組を後押しし、それを促進しようという思いの表れだと考えます。

 キックバック・着服で被害者と思っていた会社に重加算税が課される事例1では、不正を防止する内部統制や監視体制構築に努めるという全社的なコンプライアンスの努力が求められ、期ずれについて営業部門が取引先とやりとりしたメールから重加算税が課される事例2では、売上・経費の計上時期を適正に処理することの意味を、経理のみならず営業部門の現場担当者にまで理解させる必要があるのです。

 「思わぬ重加算税」を課されて、D評価に落ちるような事態とならないためには、役員、特に経営トップが率先するイニシアティブにより、全社的に取り組む必要がある、という点も改めて確認していただきたいと思います。


  1. 日本経済新聞「税務調査の負担軽減、優良企業は頻度少なく」(2013年8月26日) ↩︎

  2. 国税庁調査課「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組について」(2016年7月)3頁参照。なお、国税庁は、「税務に関するコーポレートガバナンス」を、「税務についてトップマネジメントが自ら適正申告の確保に積極的に関与し、必要な内部統制を整備すること」と定義しています。 ↩︎

  3. 国税庁は、「トップマネジメント」を「法人の代表取締役、代表執行役のほか、法人の業務に関する意思決定を行う経営責任者等」と定義しています。 ↩︎

  4. 国税庁「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組の事務実施要領」Ⅱ項。 ↩︎

  5. 実際、事例1の基になっている大津地裁平成17年12月5日判決・税資255号順号10217でも、不正行為者である従業員は代表者や役員の地位にはないものの、中核的業務を担当していること、企業としての特段のチェック体制も存在していなかったこと等により、長期間・多数回にわたる不正行為を把握できなかったこと等の事情を指摘して、重加算税の賦課が認められています。  ↩︎

【筆者プロフィール】

結城 大輔(ゆうきだいすけ)
プロフィール弁護士・ニューヨーク州弁護士・公認不正検査士
1996年東京大学法学部卒業、1998年弁護士登録、のぞみ総合法律事務所パートナー。2000~2002年日本銀行出向、2008~2009年韓国ソウルの法律事務所に出向、2010年米国UniversityofSouthernCalifornia(LL.M.)修了、2010~2013年米国ロサンゼルス・ニューヨークの法律事務所に出向、2012年ニューヨーク州弁護士登録、2013年のぞみ総合法律事務所復帰。2015年公認不正検査士登録。企業法務・コンプライアンス部門の支援、不祥事対応、危機管理、社内・第三者委員会調査、内部通報対応、エンターテインメント・スポーツ・ITビジネスの支援、米国訴訟対応・当局捜査対応、韓国関連法務、その他海外企業との取引や紛争、海外子会社管理等を主に取り扱う。

(連絡先)
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E-mail yuki@nozomisogo.gr.jp
URL www.nozomisogo.gr.jp/

山下 貴(やました たかし)
税理士
1990年中央大学法学部卒業、1992年中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了、1995年税理士登録、山下貴税理士事務所所長。公益財団法人国際科学振興財団監事、サイバネットシステム株式会社監査役、国立大学法人山形大学客員教授。

(連絡先)
山下貴税理士事務所
〒102-0083 東京都千代田区麹町3-2 ヒューリック麹町ビル8階
電話 03-3234-6206


2017116日。
弁護士ドットコム株式会社の運営する「BUSINESS LAWYERS」掲載

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