2021.02.17

取締役の報酬等の決定方針について

のぞみ総合法律事務所
弁護士 川西 風人

 令和3年3月1日より、会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)及びそれに伴う会社法施行規則等の一部を改正する省令(令和2年11月27日法務省令第52号)が施行されます。
 改正後の会社法(以下単に「会社法」といいます。)では、上場会社等[1]の取締役会は、定款又は株主総会の決議によって取締役(監査等委員である取締役は除きます。)の個人別の報酬等の内容が定められていない場合、その内容についての決定に関する方針(以下「報酬等の決定方針」といいます。)を決定することが義務付けられました(会社法361条7項)。
 同規定は経過規定が置かれることなく、施行日から効力を生じるため、施行日前又は遅くとも施行日以後速やかに当該方針を決定しておく必要があります。施行日以後、対象となる会社において報酬等の決定方針を決定しないまま取締役の個人別の報酬等の内容を取締役会において決定した場合、又は、報酬等の決定方針に違反して取締役の個人別の報酬等の内容を決定した場合には、その決定は無効になると解されています。
 報酬等の決定方針として定めるべき事項の具体的内容は改正後の会社法施行規則(以下単に「施行規則」といいます。)98条の5各号で定められています。本稿においては、決定すべき事項の概要とともに、具体的な記載内容についてご説明いたします。
 ご不明点や本件に関するご質問等がございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.nozomisogo.gr.jp/contact)までご連絡ください。

 

1 業績指標に連動しない金銭報酬に関する決定方針(第1号)

 第1号は、取締役の個人別の報酬等のうち、業績連動報酬等(第2号)及び非金銭報酬等(第3号)以外のもの(つまり業績指標に連動しない金銭報酬)の額又はその算定方法の決定に関する方針を定めるものとしています。
 典型的には基本報酬として固定額で支払う金銭報酬の決定方針がこれにあたり、具体的な決議事項の記載例としては、例えば以下のようなものが考えられます。

【記載例1】
取締役の基本報酬は、固定報酬とし、役位、職責、在任年数その他会社の業績等を総合考慮して決定する。
 

 なお、施行規則の各号で定められた事項は個別に記載する必要はなく、複数の内容を一緒に記載することも認められているため、「固定報酬は…を考慮してその額を決定し、月例で支払う」等、報酬等を与える時期(第5号)を合わせて記載することも可能です。

2 業績連動報酬等に関する決定方針(第2号)

 第2号は、取締役の個人別の報酬等のうち、業績連動報酬等[2]がある場合には、当該業績連動報酬等に係る業績指標の内容及び当該業績連動報酬等の額又は数の算定方法の決定に関する方針を定めるものとしています。
 典型的には、売上や営業利益等の利益の状況を示す指標に連動してその額が変動する賞与等についての決定方針がこれにあたり、例えば以下のように定めることが考えられます。

【記載例2】
取締役(社外取締役を除く)の業績連動報酬等は、各事業年度の連結営業利益の目標達成率に応じて算出された額を賞与として、毎年、一定の時期に支給する。

3 非金銭報酬等に関する決定方針(第3号)

 第3号は、取締役の個人別の報酬等のうち、非金銭報酬等がある場合には、当該非金銭報酬等の内容及び当該非金銭報酬等の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針を定めるものとしています[3]
 例えば、ストックオプションとして付与する新株予約権等についての決定方針がこれにあたります。

【記載例3】
取締役(社外取締役を除く)に対しては、中長期的な企業価値向上に向けたインセンティブ付与を目的として、毎年一定の時期に、株主総会において基本報酬と別枠で承認を得た報酬上限額の範囲内において、ストックオプション(新株予約権)を付与する。個別の取締役に付与するストックオプションの個数は、個別の取締役の役位、職責、在任年数その他業績も総合考慮して決定する。

4 報酬等の種類ごとの割合に関する決定方針(第4号)

 第4号は、第1号の報酬等の額、業績連動報酬等の額又は非金銭報酬等の額の取締役の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針を定めるものとしています。業績連動報酬等を採用している場合、実際に支給するまで具体的な割合は確定しないことが通常であると思われますが、ここで求められているのは割合そのものではなく、あくまで割合の決定方針ですので、以下のような形で記載することが考えられます。また、役位によって業績連動報酬の割合を変動させることもあり得るでしょう。

【記載例4】
取締役(社外取締役を除く)について、報酬等の種類ごとの割合は、業績指標100%達成時において、おおよその目安として基本報酬:業績連動報酬等:非金銭報酬等=●:●:●とする。

5 報酬等を与える時期又は条件に関する決定方針(第5号)

 第5号は、取締役に対し報酬等を与える時期又は条件の決定に関する方針を定めるものとしています。
 前記1で記載したような固定報酬の支給時期(月例・年俸)や退職慰労金の支給時期(退任時一括支給等)についての決定方針がこれにあたります。

【記載例5】
取締役に対する退職慰労金は、その退任時に、一時金として支払うものとする。

6 決定の全部又は一部を第三者に委任する場合の決定事項(第6号)

 第6号は、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部又は一部を取締役その他の第三者に委任することとするときは、以下の事項を定めるものとしています。
イ 当該委任を受ける者の氏名又は当該株式会社における地位及び担当
ロ イの者に委任する権限の内容
ハ イの者によりロの権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容
 実務上行われているように、代表取締役へ取締役の個人別の報酬等の内容の決定を委任(再一任)する場合がこれにあたり、例えば以下のように定めることが考えられます。

【記載例6】
各取締役の具体的な基本報酬の額並びに賞与の個人別の業績評価及び額については、取締役会決議に基づき代表取締役社長にその決定を委任する。代表取締役社長は、株主総会において承認を得た報酬等の上限額の範囲内において、委員の過半数が社外取締役で構成される報酬諮問委員会の答申を得たうえで、上記について決定するものとする。

7 第三者へ委任する場合以外の決定方法(第7号)

 第7号は、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の方法(前号に掲げる事項を除く。)について定めるものとしています。
 例えば、取締役会において個人別の報酬を決定する際に、任意の報酬諮問委員会の答申を踏まえて決定するような場合がこれにあたります。

【記載例7】
各取締役の具体的な基本報酬の額は、取締役会が、株主総会において承認を得た報酬等の上限額の範囲内において、委員の過半数が社外取締役で構成される報酬諮問委員会の答申を踏まえ、決定する。

8 その他の重要事項(第8号)

 第8号は、1号から7号に掲げる事項のほかに取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する重要な事項に関する方針を定めるものとしています。
 報酬等の決定方針に係る基本的な方針等がこれにあたり、決定方針の内容として最初に記載される会社も多いものと思われます。

【記載例8】
当社の取締役(社外取締役を除く)の報酬は、企業価値向上に向けたインセンティブとして機能するよう当社の業績とも連動した報酬体系とし、各取締役の役位、職責及び業績等を踏まえた固定報酬としての基本報酬及び業績連動報酬等(賞与)から構成する。社外取締役については、その職務に鑑み、基本報酬のみとする。

以上


[1] 具体的には、監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)であって、金融商品取引法24条1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を提出しなければならないもの又は監査等委員会設置会社です。

[2] 利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の当該株式会社又はその関係会社の業績を示す指標(以下「業績指標」といいます。)を基礎としてその額又は数が算定される報酬等をいいます。

[3] なお、募集株式及び募集新株予約権を報酬とする場合には、所定の事項を定款又は株主総会決議により定めておく必要があり(会社法361条1項3号、同4号及び施行規則98条の2、同98条の3)、こちらの決定事項についても、経過措置が置かれていないため、3月総会以降においてこれらの報酬議案を付議する場合、追加された決議事項には留意が必要です。

 

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