2026.07.21

改正保険業法(2026年6月1日施行)の概説~保険代理店が留意すべき事項(その4・最終回)

のぞみ総合法律事務所
弁護士 吉田桂公

(「その3」からの続き)

3 特定大規模乗合保険募集人の体制整備義務

(7)保険募集の業務に係る内部通報制度
(施行規則215条の4第1項7号、227条の21第1項4号、監督指針Ⅱ-4-2-15-4(4))

 特定大規模乗合保険募集人は、役員又は使用人による保険募集の業務に関する通報及び相談(以下「内部通報等」といいます。)に応じ、適切に対応するための責任者の設置、社内規則等の整備その他の体制整備を行い、当該体制整備の状況について、定期的な検証及び見直しを行う必要があります。
 なお、体制整備にあたっては、内部通報等がなされた事案に係る利害関係者の排除や責任者の独立性の確保等により、内部通報等に対応する業務の独立性・中立性・公正性を確保することや、内部通報等を行った者を特定させる情報の共有は必要最小限にする等により、内部通報等を行った者の探索や不利益な取扱いを防止すること等に留意しなければなりません。

(8)不祥事件の通知
(施行規則215条の4第1項7号、227条の21第1項4号、監督指針Ⅱ-4-2-15-4(5))

ア 特定大規模乗合保険募集人は、所属保険会社等から委託される業務において不祥事件が発生し、当該所属保険会社等が不祥事件の届出を行ったことを認知した場合には、次の対応を行う必要があります。

(ア)不祥事件の概要作成及び通知

 当該特定大規模乗合保険募集人は、必要に応じて当該所属保険会社等の協力を得つつ、自らの責任において不祥事件の概要を作成し、遅滞なく、不祥事件の届出を行った所属保険会社以外の所属保険会社等(以下「非届出所属保険会社等」といいます。)の全てに対して通知するとともに[1] [2]、非届出所属保険会社等による照会や調査に適切かつ十分に協力する必要があります。

(イ)類似不祥事件の疑いが認められる場合の追加通知

 非届出所属保険会社等が当該特定大規模乗合保険募集人に委託する業務において、不祥事件を惹起した者が当該不祥事件と類似の不祥事件を惹起した疑いが認められる場合[3]には、当該非届出所属保険会社等に対し、遅滞なく、上記の概要と併せて、不祥事件を惹起した者の氏名及び役職名その他参考となるべき事項を通知するとともに、非届出所属保険会社等による照会や調査に適切かつ十分に協力しなければなりません。
 なお、「その他参考となるべき事項」は、当該不祥事件を惹起した者(以下「当該惹起者」といいます。)に関する事項のうち、年齢、生年月日といった当該惹起者を特定するために必要な情報のほか、当該惹起者が当該特定大規模乗合保険募集人に入社した日、当該不祥事件における当該惹起者の関与状況(当該惹起者の行動・認識等)といった、発生している疑いのある類似事案の調査のために必要な情報に限られます(パブコメ結果2[4]No.128)。
 また、上記の通知に係る期間・頻度に関しては、例えば、金銭の費消・流用事案(その疑いのある事案を含む)等、顧客の財産に被害が生じ得る事案や犯罪行為のおそれがある事案等、不祥事件の内容や性質によっては被害の拡大防止の観点から非届出所属保険会社等による迅速な伏在調査の実施が必要となる場合もあることから、事案の内容に応じて可能な限り迅速かつ適切な頻度で行うよう努める必要があります。

イ 個人情報の取扱い上の留意点

(ア)「不祥事件の概要」や「その他参考となるべき事項」を非届出所属保険会社等に通知する場合には、個人情報保護法27条1項1号の「法令に基づく場合」に該当すると考えられるため、例外的にあらかじめ本人の同意を得ることなく通知することが可能であると考えられます(パブコメ結果2No.124)。
(イ)上記の「不祥事件を惹起した者の氏名及び役職名その他参考となるべき事項」に係る個人情報等としては、不祥事件を惹起した者に係る個人情報に限定される(例えば、当該不祥事件の被害者や当該不祥事件を惹起した者の関係者等の氏名等は含まれません。)ことを踏まえ、通知の内容に当該不祥事件を惹起した者以外の個人情報等が含まれていないか、通知の送付先に誤りがないか等を複数名で確認するなどにより、個人情報等の漏えい等の個人情報保護法への違反又は抵触が生じないよう、十分に留意する必要があります。

ウ 不祥事件該当性の判断基準

 届出義務がある不祥事件は、以下のとおりです(施行規則85条8項)。

① 保険会社の業務を遂行するに際しての詐欺、横領、背任その他の犯罪行為
② 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)に違反する行為
③ 次の保険募集に関する規制等に反する行為
・ 情報提供義務違反
・ 意向把握義務違反
・ 各種禁止行為(保険業法300条1項)違反
・ 保険業法300条の2において準用する金融商品取引法38条3号から6号まで若しくは9号若しくは39条1項の規定又は特定保険契約に係る情報提供義務(施行規則234条の21の2第1項)違反
・ 保険業法又は同法に基づく内閣総理大臣の処分に違反したとき、その他保険募集に関し著しく不適当な行為をしたと認められるとき(同法307条1項3号)
④ 現金、手形、小切手又は有価証券その他有価物の紛失(盗難に遭うこと及び過不足を生じさせることを含む)のうち、保険会社の業務の特性、規模その他の事情を勘案し、当該業務の管理上重大な紛失と認められるもの
⑤ 海外で発生した上記各行為又はこれに準ずるもので、発生地の監督当局に報告したもの
⑥ その他保険会社の業務の健全かつ適切な運営に支障を来す行為又はそのおそれのある行為であって上記各行為に準ずるもの

 この中で、上記⑥(いわゆるバスケット条項)の該当性がよく問題となります。私見ではありますが、バスケット条項に該当するか否かの判断においては、金融庁「行政処分の基準」[5]を参考に、下表の判断要素を踏まえて検討することが合理的であると考えます。

<表>

顧客の被害の程度 顧客の範囲・数
個々の顧客の被害の程度の深刻さ
行為自体の悪質性 顧客から苦情等があったにもかかわらず、改善せずに問題事象が発生したか など
期間、反復性 当該行為が長期間にわたって行われたのか、短期間のものだったのか
反復・継続して行われたものか、1回限りのものか
過去に同様の行為が行われたことがあるか
故意性の有無 当該行為が違法・不適切であることを認識しつつ意図的に行われたのか、過失(ミス)によるものか[6]
組織性の有無 当該行為が担当者個人の判断で行われたものか、上司や経営陣の関与があったか[7]
隠蔽の有無 問題を認識した後に隠蔽行為があったか
反社会的勢力の関与の有無 反社会的勢力の関与があったか
態勢面の十分性 PDCAサイクルのどこに問題があるのか(内部規程の不備、組織体制の不備、研修態勢の不備、内部監査態勢の不備等)
一つの部署・営業店・担当者の行為にとどまるのか、他の部署・営業店・担当者でも同様の行為があったのか

本記事に関するお問合せは、執筆者である吉田桂公弁護士に直接ご連絡いただくか、又は弊所ウェブサイトのお問合せフォームまでお問合せください。


[1] 生命保険協会「保険募集人の体制整備に関するガイドライン」(令和8年5月13日)・別紙5-1及び5-2(類似の不祥事件を惹起した疑いの有無に応じた不祥事件の概要通知ひな形)(https://www.seiho.or.jp/activity/guideline/pdf/taiseiseibi.pdf)参照。

[2] 「不祥事件の概要」を非届出所属保険会社等に通知済みの場合、その後に当該不祥事件に係る届出を行う度に、必ずしも非届出所属保険会社等に対して、改めて「不祥事件の概要」を通知する必要はないが、届出に際して当該不祥事件の概要に変更が生じたときには、非届出所属保険会社等に通知済みの概要の修正等を行う必要がある(パブコメ結果2No.125)。また、不祥事件の届出を行う前に他の伏在事案が発覚し、当該不祥事件の概要等を非届出所属保険会社等に連携している場合には、必ずしも届出後に当該非届出所属保険会社等に改めて当該不祥事件の概要等の通知を行う必要はない(パブコメ結果2No.126)。

[3] 類似の不祥事件を惹起した疑いの有無については、所属保険会社等の協力も得つつ、組織として適切に検討を実施する必要がある。

[4] https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20260330/01.pdf

[5] https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/syobun.html

[6] 平成24年8月金融検査結果事例集(https://www.fsa.go.jp/news/24/ginkou/20120810-4/01.pdf)161頁掲載の事例では、「事故者に意図がなかったことなどをもって、当局に対する不祥事件の届出が不要であるとした」ことを問題としており、行為者が意図的でない場合でも不祥事件に該当することはある点に、留意が必要です。

[7] 監督指針Ⅲ-2-16(3)②イは、「保険募集人に関する不祥事件等届出書の場合」の「保険募集人に対する検証の着眼点」として、「当該事件に役員は関与していないか、組織的な関与は認められないか」(上記表の「組織性の有無」の観点)、「同様の問題が他の部門(保険代理店においては他の事務所等)で生じていないかのチェック・・・が厳正に行われているか」「内部牽制機能が適切に発揮されているか」「保険代理店内における、保険募集人に対する教育・管理・指導は十分か」(上記表の「態勢面の十分性」の観点)、「当該事件の発覚後の対応が適切か」(上記表の「隠蔽の有無」の観点)を挙げています。

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