2020.08.18

リツイートと権利侵害

のぞみ総合法律事務所
弁護士 劉 セビョク

1.はじめに

 ソーシャル・ネットワーキング・サービス「Twitter」におけるリツイートが著作権法上の氏名表示権及び同一性保持権の侵害にあたるとして、2020年7月21日、最高裁判所第三小法廷は、Twitter, Inc.(以下「米国・Twitter社」といいます。)に対し、リツイートした者の発信者情報を開示するよう命じる旨の判決を下しました(以下「本件最高裁判決」といいます。)。
 この件とは別に、先立つ2019年9月12日、大阪地裁は、他人の名誉を毀損する投稿をリツイートすることが新たな名誉毀損にあたるかが争われた事案において、リツイートした者に対し損害賠償の支払を命じる判決を下しています[1](二審の大阪高裁もこの結論を維持し、投稿者は、その後、最高裁への上告を断念しました。)。
 リツイート(第三者のツイートを紹介ないし引用する、Twitter上の再投稿)は、ボタンひとつで手軽に行うことができ、情報化社会における素早い情報流通にも寄与する機能である一方、リツイート元の投稿・情報が誤りであったり、他者の権利を侵害するものであったりした場合には、誤情報や権利侵害を不可逆的に拡大させるツールにもなり得ます。
 今回は、本件最高裁判決の判旨を紹介するとともに、同判決が今後及ぼす影響について考察します。

2.事案の概要

 本件最高裁判決の事案(以下「本件」といいます。)の概要は、以下のとおりです。

 ある写真家が、自身の撮影した写真画像(以下「本件写真画像」といいます。)を自身のウェブサイトに掲載していたところ、①氏名不詳者のアカウントが本件写真画像を無断で複製した画像をプロフィール画像としてTwitter上に掲載し、②別の氏名不詳者のアカウントが本件写真画像を無断で複製した画像をTwitter上のタイムラインに投稿(ツイート)し、③その後、別の氏名不詳者のアカウント(複数)が前記②のツイートをリツイートした。ここでリツイートにより表示された写真画像は、元の本件写真画像の上部と下部がトリミング(一部切除)された形となっており、そのため、もともと本件写真画像上に表示されていた写真家の氏名が表示されなくなってしまっている。
 前記写真家は、前記①~③のTwitter上の行為が、自身の複製権や公衆送信権を侵害し、また、前記③については氏名表示権や同一性保持権等をも侵害するものであるとして、米国・Twitter社及びTwitter Japan株式会社を相手に、プロバイダ責任制限法に基づき、前記①~③のアカウントの発信者情報を開示するよう求める訴訟を提起した。

3.著作権と著作者人格権の違い

 判決の内容を考察する前提として、著作権著作者人格権の違いについて理解する必要があります。
 著作権法は、著作権と著作者人格権という、異なる性質の権利を定めています。大まかにいえば、前者は、自身が著作権をもつ著作物について他者に無断で利用されない権利をいい、後者は、自身が著作者である著作物について一定の意に沿わない態様での取扱いを受けない権利をいいます。
 前者は著作権に関する財産的利益に基づく権利ですので、他者に譲渡することが可能です(そのため、著作権者と著作者が別人物であることもあり得ます。)が、後者は、著作者の人格的利益に基づく権利ですので、他者に譲渡することができず、著作者に専属的に帰属します。
 本件でいうと、写真家は、自身の著作物である本件写真画像が無断でインターネットを通じて公開されたことについて、複製権(著作権法第21条)の侵害や公衆送信権(同法第23条第1項)の侵害を主張しており、本件写真画像がトリミングにより自身の氏名が表示されない形式で拡散されたことについて、氏名表示権(同法第19条)の侵害や同一性保持権(同法第20条)の侵害を主張しています。

権利の名称 権利の内容
複製権
(第21条)
「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製する」(同法第2条第1項第15号)権利
公衆送信権
(第23条第1項)
「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(…中略…)にあるものによる送信」(同法第2条第1項第7号の2)を行う権利
氏名表示権
(第19条)
その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利
同一性保持権
(第20条)
「その著作物及びその題号の同一性を保持する権利」、「その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない」権利

※条数は著作権法の条数

 複製権と公衆送信権は著作権、氏名表示権と同一性保持権は著作者人格権に分類されます(写真家は、本件においてこれ以外にもいくつかの主張をしていますが、本稿では割愛します。)。

4.一審判決(東京地方裁判所判決平成28年9月15日判例時報2382号41頁)

 一審は、前記①及び②については、複製権侵害及び公衆送信権侵害を認め、米国Twitter社にアカウントに関する発信者情報の開示を命じた一方、前記③のリツイートについては、複製権、公衆送信権、氏名表示権、同一性保持権等のいずれも侵害しないとして、前記③のアカウントに関する発信者情報開示請求を棄却しました。
 リツイートがいずれの権利の侵害にも該当しない理由として、東京地裁は、ロクラクⅡ事件最高裁判決(最高裁判所第一小法廷平成23年1月18日民集65巻1号121頁)を参照判例として挙げつつ、「本件写真の画像が本件アカウント3~5のタイムラインに表示されるのは,本件リツイート行為により同タイムラインのURLにリンク先である流通情報2(2)のURLへのインラインリンクが自動的に設定され,同URLからユーザーのパソコン等の端末に直接画像ファイルのデータが送信されるためである。すなわち,流通情報3~5の各URLに流通情報2(2)のデータは一切送信されず,同URLからユーザーの端末への同データの送信も行われないから,本件リツイート行為は,それ自体として上記データを送信し,又はこれを送信可能化するものでなく,公衆送信(著作権法2条1項7号の2,9号の4及び9号の5,23条1項)に当たることはないと解すべきである。」と判示しました。
 上記判旨は、つまるところ、リツイートによって本件写真画像がTwitterのユーザーに表示されるものの、これは、リツイートによってリンク先(リツイート元)のURLへのインラインリンクが自動的に設定され、ユーザーの端末に直接画像ファイルのデータが送信されるためであり、リツイートした者のURLからユーザーの端末に画像データが送信されるわけではないことから、リツイートした者は侵害の主体たりえない(侵害の主体はあくまでリツイート元のアカウント保持者である)旨を述べたものです。
 なお、Twitter Japan株式会社に対する請求については、そもそも同社が発信者情報を保有していないことを理由に棄却されています。
 一審判決を受けて、写真家は、敗訴部分につき控訴しました。

5.控訴審判決(知的財産高等裁判所判決平成30年4月25日判例時報2382号24頁)

 二審の知財高裁は、一審とは変わって、前記③のアカウントに関する発信者情報請求を認める旨の判決を下しました。
 写真家による複製権侵害及び公衆送信権侵害の主張については一審と同様の論理により退けましたが、一方で、氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害の主張については、「HTMLプログラムやCSSプログラム等により,位置や大きさなどを指定された」ために、本件写真画像において写真家の氏名が表示されなくなり、また、改変がなされたとして、写真家の主張を認め、前記③のアカウントに関する発信者情報開示請求が認容されました。
 二審判決を受けて、米国・Twitter社は、最高裁に上告しました。

6.上告審判決(本件最高裁判決)

 最高裁は、米国・Twitter社の上告を棄却し、知財高裁の判決の結論を維持しました(なお、判決には、戸倉裁判官の補足意見と、林景一裁判官の反対意見が付されています。)。
 上告理由の中で、米国・Twitter社は、①リツイート者は著作物たる本件写真画像の利用を行っていないのであるから「著作物の公衆への提供若しくは提示」に該当しないため同一性保持権の侵害にあたらない、②ユーザーは本件写真画像をクリックすれば写真家の氏名が表示された元の画像を見ることができることから氏名表示権の侵害にあたらない、という主張を述べていました。
 しかし、最高裁は、①については、著作権法第19条第1項の「『著作物の公衆への提供又は提示』は,上記権利に係る著作物の利用によることを要しないと解するのが相当である。」と判示し、②については、元の画像が表示されているのはあくまで別個のウェブページであり「本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって,本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではない」として、米・Twitter社のいずれの主張も退けました。
 結論において知財高裁と変わらず写真家の請求を認容していることから、最高裁では、リツイートが複製権侵害や公衆送信権侵害にあたるかについては判断されていません。したがって、本件を「リツイートが著作権侵害にあたることを最高裁が認めた事案である」と評価・理解することは、正確には誤りですので、注意が必要です。

 なお、本件とやや場面は異なりますが、「他人のウェブサイトのURLをリンク先として張り付ける行為がリンク先の著作権を侵害することになるか」という論点について、経済産業省は、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」において、「リンクを張ること自体により、公衆送信、複製のいずれも行われるわけではないから、複製権侵害、公衆送信権侵害のいずれも問題にならないものと考えられる」ことから、「サーフェスリンク、ディープリンク、イメージリンク、フレームリンク、インラインリンクの個別の態様でのリンクを張る行為自体においては、原則として著作権侵害の問題は生じないと考えるのが合理的である。」との見解を公表しており[2]、情報発信の主体はあくまでリンク先であると考えている点において、当該見解はロクラクⅡ事件最高裁判決や、本件の一審・二審判決の考え方とも整合します。
 一方で、経済産業省は、「リンク態様が複雑化している今日、ウェブサイトの運営者にとっては、ウェブサイトを閲覧するユーザーから見てどのように映るかという観点からすれば望ましくない態様でリンクを張られる場合があり、例えば、ユーザーのコンピュータでの表示態様が、リンク先のウェブページ又はその他著作物であるにもかかわらずリンク元のウェブページ又はその他著作物であるかのような態様であるような場合には、著作者人格権侵害等の著作権法上の問題が生じる可能性があるとも考えられる。」とも述べており[3]、リンク先のURLを張る行為もその態様如何では著作者人格権侵害が問題となり得ることを認めている点において、本件最高裁判決との整合性も認められます。

7.本件最高裁判決の意義・射程

 本件最高裁判決は、リツイートが著作者人格権侵害となる場合があることを認めた点において重要な意義を有しています。これにより、リツイートをする者においては、「リンク先のURLを張っただけであり、自身は権利侵害の主体になり得ない」という従来型の反論が通じないケースがあることを認識しなくてはなりません。
 一方で、この判決をどこまで一般化して捉えるべきかについては、注意を要します。
 まず、本件では発信者情報開示請求訴訟の構造上、権利侵害の事実の有無のみが問われ、リツイートした者の故意・過失については判断されていません。リツイートした者に対する損害賠償請求が認められるためには、著作者人格権侵害の事実のみならず、リツイートした者において故意又は過失があったことが必要となる(民法第709条)ことから、本件最高裁判決のみをもってリツイートした者の損害賠償責任が肯定されるわけではありません。事案によっては、権利侵害の事実はあるものの故意・過失がないため損害賠償請求は認められない、という結論も理論上あり得ます。
 そうは言っても、Twitterのユーザーは、リツイートをしようとする際、リツイートしようとする内容に名誉毀損や著作者人格権侵害の内容が含まれていないか、リツイートした場合にはタイムライン上第三者に対しどのように表示されるか等を十分に考慮してからリツイートに及ぶ必要があるでしょう。とりわけ、名誉毀損に関する冒頭の大阪地裁・高裁判決の内容を踏まえれば、名誉毀損や侮辱を含む他人のツイートをリツイートする行為は、当該投稿内容に反対する旨の留保をつけているといった事情がない限り、リツイートをした者において当該記事に賛同しているものとしてユーザーに受け取られる可能性があります。
 次に、前述したとおり、本件最高裁判決においてはリツイートが著作権侵害に該当するかについては判断されていません。そのため、この点に関する今後の判例・実務の集積が待たれるところですが、仮に本件の控訴審判決(知財高裁)の論理を前提としても、例えば、他者の著作権を侵害しているリツイート元の内容をツイート本文に引用する形の「コメント付きリツイート」をしたような場合においては、当該コメント付きリツイート行為が新たな著作権侵害にあたると評価される可能性がありますので、注意が必要です。
 また、他人の画像付きツイートをリツイートするのではなく、いったん当該画像データを自身の端末のストレージに保存した上で、著作権者に無断で自身のタイムライン上にアップロードする行為は、ユーザーからの見え方においてリツイートとほぼ変わらない場合であっても、著作権侵害となり得ますので、当該アップロードにつき著作権者の許諾を得られているかという点を確認する必要があるでしょう。

8.おわりに

 現代の情報化社会においては、SNSのもつ利便性と危険性の双方を正しく理解し、利用することが求められています。
 SNSと名誉毀損に関しては、過去に掲載した以下のニュースレターも是非ご参照ください。

企業が講じるべきSNS等における名誉毀損対応
第1回 SNSでの炎上を防止するために、従業員に対して行うべきこと
第2回 SNSでの名誉毀損に対して削除請求や発信者情報開示請求をするための手続(削除請求編)
第3回 SNSでの名誉毀損に対して削除請求や発信者情報開示請求をするための手続(発信者情報開示請求編)

以上


[1] 大阪地方裁判所判決令和元年9月12日判例時報2434号41頁

[2] 経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(2018年7月、https://www.meti.go.jp/press/2018/07/20180727001/20180727001-1.pdf)146頁

[3] 前掲・経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」147頁

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